追補A‐2


追補A‐1に引き続き、本編に入りきらなかった、さまざまなネタを披露していきます。ごゆっくりとお楽しみ下さい。


ファイル解析基本編

偽典の研究にも様々なものがあるが、ファイルの解析は、大きな柱のひとつである。すでに、「ら」さんの手によってファイルにXORをかけるソフトが開発されており、これを使えば、メッセージデータ用ファイルなどの大部分が読めるようになる。

ソフトを通して変換されたファイルの拡張子をTXTに変更し、テキストエディタに読み込ませてみよう。すると、ゴミデータの中に文字列らしきものを発見できるだろう。なかにはまったくゴミデータばかりのものもあるが、そういうのはサクッとゴミ箱行きである。

解析にあたっては、ファイル名の先頭に注目しよう。まず、先頭がETで始まるものは、各種設定のテーブルファイルである。たとえば、ET0000.BINではすべての神族・大種族・種族・覚醒段階が挙げられている。また、ET0001.BINにはアイテムの説明が、ET0004.BINには魔法・特技の説明が書かれている(これらの説明はテンポラリファイルにも含まれているが、ゴミが多くて読みにくい)。さらに、ET000D.BINには2Dマップの地名が、ET0010.BINには3Dマップの地名が載っている。そして、ET0018.BINとET0040.BINにはフラグの名称がある。

ここで、ET0010.BINには注意が必要だ。というのは、ここにある地名、3Dマップそのものの名称ではなく、イベント上対応する場所を示したものだからだ。そのため、「靖国神社」という文字が見える。これは、3Dマップでは「来てはいけない所」に該当する。無数の端末が並び、多くの悪魔データをダウンロードできる隠しマップを指す。開発状況をチェックするためのものらしいが、もともとは靖国神社になる予定だったことがわかる。

なお、ほかに知られたボツマップとして、「築地本願寺」がある。これも、開発初期段階のイベント候補地だと思われる。だが、これらまで含めるといかにも神社仏閣が多すぎる。明治神宮に東郷神社、護国寺に鬼子母神(真源寺)。それに、各地に不動尊もある。そうした理由から靖国神社と築地本願寺は候補から外されたのだろう。

次に、ファイル名の先頭がMS6またはMS7で始まるものは、悪魔との会話データである。内容は断片的であり、たいへん読みづらい。また、先頭がIDで始まるものは、悪魔との会話データの中でも、特殊なもののようだ。これに対し、通常のメッセージデータは、先頭がMS0で始まる。

少しばかり例を挙げてみよう。MS6F00.BINを見ると、「マグネタイトを吸っ×!」とか、「泣くのを止めた」とか、「跳びはねた」などの記述がある。悪魔のアクション・リアクションを設定したファイルだとわかる。ちなみに、×の箇所は、判読不能部分である。×の数ひとつがゴミデータ1バイト分に対応している。とはいえ、×の数ひとつが1文字に対応しているとはかぎらない。辞書ファイルからデータを呼び出している場合があるからだ。

このファイルを丹念に眺めていると、後半には通常のメッセージデータも含まれていることに気づく。それぞれ、初台でのオンラインフォーラム・母なる金星の巫女・渡邊と出会う場面に当たる。どれも断片的だし、各場面を扱った別のファイルにも同じ会話が収められている。なぜなんの脈絡もない、重複するメッセージデータが紛れ込んでいるのか。謎である。

もうひとつの例は、MS7F06.BIN。これも悪魔との会話データだ。珍しいことに、ゴミがほとんど付着していないため、非常に読みやすい。「ウィットに富んだジョークを言った!」「ニヤリと笑った!」「憑依された!」など、悪魔と会話する際に目にする、さまざまなメッセージが収められている。

ここからわかることは、こうしたパーツ化されたデータがプログラムによって組み合わされ、表示される仕組みになっているということだ。会話パターンは数多くあるので、合理的なやりかたではある。

ただ、先にも少し触れたが、こうした手法は通常のメッセージデータにも一部適用されている。頻繁に登場するデータをひとくくりにした辞書ファイルを用意し、メッセージデータから参照するようになっている。だから、単純にファイルをデコードしただけではすべての内容を読むことができない。しかも、この辞書ファイルの参照方法はかなり複雑で、いまだ十分には解明されていない。いったい、そこまでする意味があったのか、疑問である。

次に、P20またはP21で始まるファイルは、プレイヤーキャラクタおよび悪魔のデータファイルにあたる(初期データ)。これについては、やはり「ら」さんが解析済みのデータを発表されている。P2000.BIN〜P200F.BINまでがプレイヤーキャラクタのもので、悪魔のデータはP2020.BINから。すると、P2010.BIN〜P201F.BINまでが余ってしまうのだが、これは何を意味するのだろうか。不明である。

プレイヤーキャラクタのデータを見てみよう。驚いたことに、樹海やバーバラのものまで含まれている。ちなみに、バーバラは、新宿労働キャンプの攻略をちょっとだけ手伝ってくれる悪魔人の女性だ(猫娘とは別人)。そのデータがあるということは、当初は解放作戦に随行するという展開が想定されていたのだろう。

それから、葛城と由宇香は、データ上では相馬雪彦と内海笙子として扱われている。しかも、データはふたつあり、レベルや初期パラメータが違っている。レベルの高いほうは名称がそれぞれ「相馬雪彦_」・「内海笙子_」となっている。これは、「ムールムール」と「ムールムール_」の関係に似ている。ひょっとすると、テストプレイ用に用意されたデータなのかも。

以上、ファイルの解析について、だいたいの様子を述べた。断片的なデータの意味を探りながら全体像をつかんでいく作業は、考古学に少し似ているかもしれない。これを読んでその「考古学」に参加してくれる人がひとりでも増えてくれれば、この文章の目的は達したといえる。


没メッセージの謎

メッセージデータ用ファイルをよーく調べてみると、ボツになった会話などが案外多く見つかる。ここでは、それらをできるだけ幅広く採りあげることにしたい。

MS0031.BIN。最初のほうにいきなり「暫定」とあり、ファイルが1個まるごとボツデータという貴重なものだ。しかし、複数のイベントに関するメッセージが、脈絡なく放り込まれており、解読は難しい。

まず、「冥界をクリアして、蘇ったものとします」というト書きのあとの会話。泪と葛城の間で交わされているのだが、泪の性格が全然違う。

「ちょっとだけ、脈とか見させてね……。うん、健康そのものだね。突然倒れたから、あわてて診てみたら、ぐーぐー寝×んだもんね、あなた。この年で脳卒中かっ! とか、思っちゃった。」

「どこ、行ってたのよお!」。泪は、わんわんと泣き始めた。「バカバカバカ! いきなり消えたりして……。」

「なぁんか、嘘っぽい。さては、アタシに言え×ようなコト、して×んでしょ! ……もう、××うっぶん口きか×!」。泪はふくれて、そっぽを向いた。「ぐすん……。もう、どこへも行か×でね。アタシ、アナタしか頼×人、×のよ。」

「影のある妖艶な女性」という泪のイメージからはほど遠いセリフが並んでいる。どうやら、かなり初期の段階のもののようである。

ここでは、葛城の霊魂だけが、護国寺から冥界(黄泉)に行くことになっていたようだ。そして、その黄泉では、ある人物に会っていた。ひとりは男性で、もうひとりは女性である。それぞれ別の展開であり、ふたりに同時に会うことはないと思われる。まずは、女性のセリフから。

「あの時は、ごめんね。ああするしか×と思ったんだ。結局、あたし、自分自身が怖くて逃げだしただけだったんだね。あれから、みんなはどう×の?」

男性のセリフ。

「きみたちと別れたあと……、オレは、×に襲われたんだ。ただでさえ、毒にやられたこの身体じゃ、ひとたまりも×よ。」

「きみと別れた後、オレは強制労働キャンプで、奴隷として酷使された。メシを食うと洗脳さ×という話は、あらかじめ聞いていたから、与えられたものは、何も食べ×よ。ところが……それがまず×。×どもにはぶん殴ら×し、労働はきつい。ほんの数日で、衰弱死さ。」

男性は、さらに、「彼女」の消息を聞いてくる。ここで、『自分の彼女にした』とか『バエルに寝返った』などの選択肢が与えられる。

いちおう、このふたりは英美と早坂であろうとされている。根拠は、女性のほうはそのしゃべり方、そして男性のほうは、「彼女」がいて、しかも「毒にやられた」というセリフから、初台シェルターがらみだと考えられることにある。要するに、英美もしくは早坂が対化学戦スーツを着ないで犠牲になる、という展開が想定されていたのだろう。

それでも、釈然としない点は残る。まず、早坂は「きみたち」という呼び方はしない。そして、この「きみたち」は葛城と英美を指すことになるはずだが、そばにいるはずの英美に、早坂は話しかけていない。ただ、今とはストーリーが違っていた以上、整合しないのはやむを得ないともいえる。

ほかにも、ファイルの最後あたりには、泪とのラブシーンとおぼしき、以下のような会話が見える。

「……アタシ、ほんとはすごく不安なの。ずっとバエルに捕まってて、外のことなんか、何にもわかん×んだもん。アナタが×と、アタシ、どうしていいのかわかん×。」

「ねぇ……アタシ、心細いの。……そばに、いてく×って、言ったよね? だったら……その証を見せて。いいでしょ?」

「……ダメなの? 恋人がいるから? それだったら、気にしなくていいの。アタシ、今、アナタと一緒にいたいだけだもん。だから……アナタと、ひとつになりたいの。それは、いけ×こと?」

そりゃあ、いけないだろう。「アナタと、ひとつになりたいの」じゃエヴァンゲリオンだもんな(笑)。

なお、泪を拒絶する展開もあるようだ。「……アナタ、そのひとのこと、よっぽど好きなのね。もう、死んじゃったひとなのに」と言われてしまうが。おまけに、泪が悪魔に襲われる、という展開も、アイデアだけは用意されている(「#暫定:泪を襲っ××と、戦闘になる。ここでは勝ったことにする」)。

次へ行こう。MS00C0.BINにも暫定情報がある。が、こちらはまったく意味不明。

「2月 1日 晴 今日は耳がかゆ×。朝ご飯にあさりの味噌汁が出た。」

「2月 2日 曇り 今日は鼻がかゆ×。昼食に月見そばを食べた。」

「2月 3日 雪 今日は目がかゆ×。朝ご飯はコンビニ弁当で済ませた。」

「2月 4日 晴 今日は足の裏がかゆ×。晩ご飯は食べ×。」

……ってなんじゃこりゃ? 表示テスト用のものなのか。

それから、MS006B.BINには、ボツになったメールのデータが。

[題名] 雨宮きつね:変な夢の話(笑)

オンラインでは××××雨宮×。
昨夜、妙な夢を見たの×が、何だか気に××
御報告。自称チャネラー××(苦笑)。

会×事も無いのに変××が、実は夢の中に×××君が出て来たの×よ。

で、内容×が、君と関わりの×親しい人々が、シ
ェルターの外で事故に遭×、君が×を助×とい
う×だ×の×ど、おかしな事に結果が幾つかあ
××。

とにかく、早く助ければ助×程、君が×バスタ
ーに×確率が高まるとか、×感じで×。(ど
んな感じだ(^^;))

何だかさっぱり訳が分かり×
が、すぐに伝×方
が良い様な気が×、メールを書きま×。

×××。
で××ネットワークでお会いしま×。(^^)V

                   雨宮きつね

読みとれない部分も多いが、内容はよくわかる。デビルバスターに特例合格できるパターンを教えてくれているわけだ。

残念ながら、このデータが活かされることはなかった。このメールは葛城がフォーラムに参加していることを前提にしているのに、フォーラムに参加する展開そのものがはしょられてしまったためだ。フォーラムに参加できるとすると、こちらから書き込むために選択肢を用意したりする必要があり、制作のスケジュール的にも、データの容量的にも、とても無理だと判断されたのだろう。

ほかにも、ボツデータの可能性があるものを挙げておこう。まずは、MS0021.BINで、吉野姫のヴィジョンが現れるというもの。

突如、辺りが光に包まれ、空中に和服を着た少女のヴィジョンが浮かび上が×。「……貴方×心の中に×暗闇が×。そ××哀しみ×……。貴方は試練を乗り越え××。一人で私の元へ来るの×××。」

あと、MS0061.BINには、葛城や英美以外の男性キャラクターと、レラジエが会話を交わすというシーンがある。葛城と英美が瀕死の場合らしいのだが、この時点で、ほかのキャラクターはいないはずだ。園田は死んでいるし、それに、市ヶ谷のイベントをクリアーしないと池袋から先へは進めないので、相馬三四郎がパーティーに加わっていることもありえない。やはり、これもボツ会話である可能性が濃厚だ。

現在までに判明しているのは、このくらいである。また何か見つかれば、追記を書きたい。


フラグファイルを読み解く

ET0018.BINとET0040.BINには、フラグの名称が列挙されている。たとえば、「早坂蘇生」という項目があったりする。ただ、中身はよく似ているが、微妙に違う。なぜなのかは、明らかになっていない。

興味深いのは、「主人公救世主」なる項目があることだ。葛城がもうひとりのメシアだ、というのは筆者の説だが、制作者側もメシアであることを意識していたことを窺わせる。そして、「イナンナ復活」という文字にも注目。「イシュタル復活」ではないのである。開発初期段階の名残なのだろう。

しかも、ファイル中に「由宇香」の文字はなく、すべて「笙子」になっている。どうも内部的には「笙子」で通しているらしい。つまり、ユーザーが目にするメッセージだけ、「由宇香」に変更してあるわけだ。

さらに、「東大病院クリア後」という項目も見つかる。東大病院とはどういうことか。ここで、ET0040.BINには「ミレニアム病院クリア前」という文字があるのに、ET0018.BINにはないという奇妙な事実がヒントになる。ミレニアム総合病院はもともと東大病院だったのではないだろうか。

もしそうだとすると、その所在地はミレニアム総合病院とはかなりずれていたはずだ。東大病院は文京区本郷、分院は目白台(護国寺の近く)にあるからである。が、これでは2Dマップの東側に施設が少なくなる。そこで、名称変更して移されたのかもしれない。ただ、ストーリーの改訂が追いつかず、結果的にミレニアム総合病院は、いまいちイベント上の位置づけが曖昧な場所になってしまったようだ(第8章4節参照)。

それから、「主人公地獄の使者」という項目。『没メッセージの謎』で検討した、冥界下りのストーリーを指しているのではないだろうか。とすれば、会話データばかりでなく、フラグまで用意されていたわけで、けっこう固まっていたイベントだったということになる。

ほかにも、「固形ダイナマイト入手」という項目があって、おもしろい。前後関係から見て、初台シェルターを脱出するときのもののようだ。たぶん、1Fの出口を爆破するイベントが想定されていたのだろう。

しかし、核爆発に耐えられるはずのシェルターの扉が、ダイナマイトごときでどうこうなるとも思えない。それでボツになったのだと考えられる。ただ、シェルターの機能はほとんど停止しているのだから、壊されでもしない限り扉は開かないのではないか、という疑問はある。だが、初台シェルターは完全に「死んだ」わけではない。機能を停止したシェルターは、酸素も無くなるのだ(第1章4節参照)。したがって、内側から扉を開けることはでき、ダイナマイトは不要なのである。

あと、御花屋敷が「お化け屋敷」という身も蓋もない名前になっていたりする。それに関連して、「天逆神一度目」という項目も謎である。一度目もなにも、天逆神は固定悪魔として一度しか出現しなかったはずなのだが。ひょっとして、最初に警告してくる鬼火のことを指すのか。それとも、別のイベントが予定されていたのか。

まだある。御茶ノ水シェルターのフラグがやけに多いのだ。部屋ごとにイベントフラグが立てられている。壊滅した場合と復興した場合とで展開が異なるためだとも考えられるが、それにしても不自然なくらい多い。ミレニアム総本山と同じく、部屋から逃げ遅れた住人を救い出すといったイベントが用意されるはずだった、と理解するのが自然だろう。

ちなみに、ET0018.BINとET0040.BINには、イベント用のフラグのほか、木箱や宝箱の開閉の有無、そしてプログラムやマップのインストールの有無に関するフラグが見える。中でも、インストール済みプログラムのフラグには、未知のプログラムの名がある。「ARS Ver1.0」は、「オート・リカバー・システム」であり、こちらは以前から知られていたけれども、「DDD」なんてのもあるのだ。これはいったい何の略なのだろう。そして、どのような効果をもつ予定だったのだろうか。

また、ET0018.BINの最後のほうには、悪魔との会話で参照されるらしいパラメータが挙げられている。「猜疑心」「好戦度」「泣き虫」「短気」「物欲度」「冷酷」とあるが、悪魔全部につき、それぞれこれだけのパラメータが設定されているという、恐るべき緻密さである。開発に時間がかかったのは、このあたりにも原因がありそうだ。


デバッグモード

以下の記述は、DOS版に基づくものであることを、最初にお断りしておく。

従来から、セーブデータを操作して「会話チェック」というマップを引き出す技は知られていた。また、その会話チェックで、イベントフラグの一覧を出現させる技も発見されていた。それは、悪魔データを閲覧する際、バイナリをいじって予定ファイルサイズを変更しておくと、実際のサイズと食い違うのでエラーが出て、同時にフラグの一覧も表示されるというものだった。

しかし、偽典にはもっと簡単で、もっと本格的な裏技として、真・デバッグモードが存在していたのだ。ただし、プログラムのバージョンによってやり方が少し違う。初期バージョンだと「DDS98.EXE_奇数の数字」で、修正版では、「DDS98.EXE_英数字_英数字_英数字」で起動する。

しかも、修正版では「SYSTEMのメニュー内に“デバッグ”と表示され、殆どリアルタイムにフラグや出現位置、ミュージック再生、所持金等を操作することが可能に」なるというのだが、初期版ではそうならない。たしかに、リアルタイムにフラグを操作することはできる。会話中の分岐も選択できる。しかし、SYSTEMメニューは変化しないし、ミュージックの再生や所持金の操作などはまったくできないのである。

とはいえ、フラグの操作と会話の分岐だけでも有用には違いない。筆者が確認した限りでは、フラグを適当に埋めると伝説の「早坂復活イベント」が発生したし、会話の分岐でオセを仲魔にすることもできた。

ただ、フラグを操作できても、どのフラグがどのイベントに対応しているのかがわからないため、自由度はあまり高くない(既出のフラグ解析データとも一致しない)。ひとつひとつ試していくほかないのだ。そのうえ、ふつうはフラグが立っている場合を1、立っていない場合を0にするのだが、偽典では逆になっている。わかりにくい。


各種ソフトウェアについて

研究者のなかには、偽典のデータを徹底分析した成果をもとに、ソフトウェアを作成・公開されている方もいらっしゃる。ここでは、そうした方々の手になるソフトについて、紹介しておく。対象となるのは、TOMさんのフォントローダ、「ら」さんの悪魔データ閲覧ユーティリティ、anriさんおよびlightwaveさんのセーブファイルエディタである。

まず、フォントローダだが、これは、DOS版偽典のグラフィックフォントを読み込み、表示するソフトウェアである。これまでもフォントはデバッグモードで閲覧できたが、一部に制約があった。魔法・特技を使用したときのエフェクトや、悪魔合体時のさまざまな変化などは、見ることができなかったのである。このフォントローダにはそのような制約がなく、すべてのフォントを閲覧することができる。その結果、デバッグモードからもあえて隠してあるようなフォントは存在しないことが判明した。

現在公開されているのは、ライトバージョン(2001/08/26版)である。かつては、空きコンベンショナルメモリの要求がけっこうシビアだったのだが、この点が大幅に改善され、処理速度も向上した。また、「未保証のEMSドライバの検出をスキップする機能」がついた。以前のバージョンでは、アンチウィルスソフトを組み込んでいるとEMM386(保証されたEMSドライバ)が働かないため、起動できないという問題があったのだが、これが解決されたわけだ。

さらに、AUTOEXEC.BATとCONFIG.SYSの設定例がついたので、MS-DOSにあまり詳しくない人でも自力でファイルを編集できるようになり、ソフトを使ううえでの敷居が下がった。これについては、筆者の批評を参考にしてくださったらしい。うれしいかぎりである。この設定例にしたがえば、SmartDriveも働くようになり、パフォーマンスの低下も防ぐことができる。

ただ、現行のものは、旧バージョンにあったファイルセレクタがなくなっている。メニュー画面からフォントファイルを選択するだけでフォントローダが起動され、しかもそのファイルの内容についても簡単な説明がついているという、わかりやすい上に作業効率を高めてくれる工夫だったのだが。

そこで、筆者は前のバージョンのファイルセレクタを流用している。現行のフォントローダのファイル名を、旧版にあわせて変更するだけでいい。この組み合わせで、個人的にはほとんど不満なくフォントを見られるようになった。

できれば、ファイルセレクタを復活させてほしいところだ。もしくは、Windows版が早期に登場すれば、この問題は解決するのだけれど。

次に、悪魔データ閲覧ユーティリティについて。何といっても、全悪魔の(ほぼ)全データを閲覧できる点は圧巻である。すでに解析データがテキストファイルの形で公開されていたものの、やっぱりビジュアライズされるとインパクトが違う。生体エナジー協会の『悪魔全書』と比較した場合、経験値、マッカ、マグネタイト、所持アイテム、命運、特技修得系統、敵出現時特技、属性の詳細、会話タイプ、装備相性、防御相性、月齢対応といった多くの点について、データを提供してくれる。

とくに注目すべきは、敵出現時特技が見える点だろう。敵出現時特技とは、主に対ボス戦でボスが使用してくる隠し特技である。対アスタルテ戦でアスタルテがマハデサマンを唱えてくるのは、この設定があったからなのだ。また、ボスに対してどんな攻撃が有効なのかも一目瞭然である。そして、仲魔にした場合どんな特技を修得し、どんな装備が可能なのかというところまで、わかってしまうのだ。

ただ、筆者が使用している2000/07/10暫定評価版では、悪魔との交渉で得られるアイテムが表示されない。正式版でも検索機能や月対応詳細表示などは追加されるそうだが、交渉時の入手アイテムまではサポートしていないようだ。最新版では見られるようになっているのだろうか。それとも、悪魔のデータ上、まだ解明されていないのか。交渉時の入手アイテムが別のファイルに一括して登録されているのだとすれば、後者の可能性が高い。

なお、Windows版のファイルならば、悪魔のグラフィックまで表示してくれる。というのは、ファイルがただのBMP形式になっているから。商業用のゲームソフトでBMPを使うなんて驚きだ。ふつうなら圧縮をかけ、複数のファイルをひとつにまとめるものなのだが。たんに手を抜いた気配が濃厚だが、深読みをすれば、GIFだとライセンス料を取られるので、あえてそうしたのかもしれない。しかし、それならPNGやJPEGにすればいいはずだ。

次に、セーブファイルエディタは、その名の通り、セーブファイルの各データついて、限界値を超えないかぎり任意に改変できるというものだ。各キャラクタのデータや、所持するアイテム、宝石、マッカ、マグネタイト、それらに加えて、COMP内の並び順やロードされる際のマップなど、対象は多岐にわたる。

2001/12/02版では、ソースがカスタマイズされ、Visual Basic 6.0SP5およびWindows XPに対応した。バグフィックスだけでなく、パラメータや宝石の数を一括して変更できたり、装備をはじめとする所持アイテムの置き換えも簡単にできるなど、機能の改良・追加が行われている。

これらの開発者の方々の努力には、頭が下がる。勝手ながら、今後も改良を続けていってほしいとおもう。


フォントをめぐるあれこれ

以下は、TOMさんが開発されたフォントローダによって、DOS版のフォントを解析して得られた成果に基づくものである。

まずは、FC0000.BINから始めよう。フォント番号5番/CGEN番号564番以降に、未知の記号ファイルがある。たとえば、傷を回復する場所なのに、特定の属性専用になっている。こういう施設はなかったはずだから、やはりボツグラフィックだろう。

次に、FC2550.BINを見てみよう。魔獣ファンタキャットの画像ファイルである。このグラフィック、葛城の飼い猫(ロボット)だったゾウイに似ているような気がしないだろうか。ひょっとして、ゾウイにはファンタキャットが憑依したのでは? もしそうなら、葛城の母はこの悪魔に殺されたことになる(第8章2節参照)。

また、FC3000.BIN。コミカルにデフォルメされた由宇香と英美のグラフィックを見ることができる。マウスで書いたと思われる汚い字で、「No GRAHIC 現在. 背景制作中!!」とある。Pの字が抜け落ちている点はご愛敬。制作中、スタッフの人たちはずっとこの画像を目にしていたんだろうと思うと、なんだかほほえましい。

それから、FC5020.BINにも注目。フォント番号6番/CGEN番号1番のグラフィックには、柱で支えられた台が描かれている。そして、天井もまた柱によって支えられており、その天井からは、短い縄のようなものが垂れ下がっている。これは、何を意味するのだろうか。

さて、今回のメインは、FC50B0.BINである。エンディングで使用される画像だ。実際は一瞬しか表示されないものだが、じっくり見ると、なかなかおもしろい。

フォント番号3/CGEN番号4に、鏡文字で"NECRRONOMICON"とある。Rがひとつよけいな気がする。それに、フォント番号4/CGEN番号4には、"ABRAKADABRA"という文字が見つかる。これは正しい綴りのようだ。そして……。

フォント番号10以降が重要だ。まずは、どんな文章かご覧いただきたい。

6 Then the seven angels who had the seven trumpets prepared to sound them.
7 The first angels sounded his trumpet and there come hail and five mixed wish blood, and it was hurled down upon the earth. A third of the earth was burned up, a third of the trees wera burned up, and all the green grass was burned up.
8 The second angel sounded his trumpet, and something like a huge mountain, all ablaze, was thrown into the sea. A third of the sea turned into blood.
9 a third of the living creatures in the sea died, and a third of the ships were destroyed.
10 the third angels sounded his trumpet, and a gread star, blazing like a torth, fell from the sky on a third of the rivers and on the springs of water --

実はこれ、『ヨハネの黙示録』(第8章6節以降)なのである。ちなみに、英文のところどころに誤字が見られるが、これは制作者側の入力ミスである。で、日本語訳はどうなっているのか。以下に掲載する。

さて、七つのラッパをもっていた七人の天使たちは、ラッパを吹く準備を整えた。
そして、第一の天使がラッパを吹いた。すると、血の混じった雹と火が生じて、地上に投げ落とされた。そして、陸地の三分の一が火に焼き尽くされ、陸地に生えていた樹木の三分の一が焼き尽くされて、青草は残すところなく焼き尽くされてしまった。
そして第二の天使がラッパを吹いた。すると、火だるまになって燃える巨大な山のようなものが海に投げ落とされた。すると、海の三分の一は血に変わり、海中に棲んでいたものの三分の一が死に、また船という船の三分の一は壊された。
そして、第三の天使がラッパを吹いた。すると、松明のように燃え盛る巨大な星が天から落ちて、三分の一の川と源泉との上に落ちた。

さりげなく『ヨハネの黙示録』が紛れ込んでいるあたり、偽典の奥深さを感じさせる。

〔おまけ〕

ほかに気になったグラフィックの一覧表を載せておく。

その他のグラフィック
ファイル名 フォント番号 CGEN番号 内容
FC4000.BIN 16 1 パワーアップ後のニュートン
FC4010.BIN 12 1 岩に刺さった剣
FC5000.BIN 9 1 倒壊した高速道路
FC50C0.BIN 5 3 TAKERUBE NOBUAKI
6 5 NALYA
6 6 NORA
7 4 YAMAKITA ATUSHI

陰陽師と偽典

陰陽師がちょっとしたブームのようだ。が、基本的なところで誤解があるようで、それが気になる。たとえば、現代に正式の陰陽師はいない。陰陽師というのは陰陽寮の役人のことであり、明治になってまもなく、陰陽寮は廃止されているからだ。

そうはいっても、陰陽道の術の使い手はいるはずだ、と思われるかもしれない。しかし、実際にはかなり怪しいケースが見られる。自称陰陽師という人が除霊の際に唱える呪文に、それが現れている。

「ふるべゆらゆらとふるへ」。この呪文の出典は、『旧事本紀』である。同書には物部氏の家記から採られた古い伝承が載せられており、それによれば、物部氏の祖・神饒速日にぎはやひが天の母神たる天神御祖あまつかみのみおやから、次のような言葉を授かったという。

もし痛むところあらば、この十宝をもって、一二三四五六七八九十ひとふたみのよいちむななやここのたりやと謂ひてふるへ。ゆらゆらとふるへ。かくせば死人も生き返らむ。すなわち是れ布瑠ふることもとなり。

ここにいう十宝とは、天璽瑞宝あまつしるしのみずたからという十種の霊宝のことを指す。そして、この蘇生の呪法を鎮魂たまふりという。以上からわかるように、「ふるべゆらゆらとふるへ」という呪文は、神道のものだ。陰陽道ではない。いったい、いつからこうなったのだろう。

そもそも陰陽道は、中国がルーツである。民間伝承ベースの道教に取り込まれた陰陽五行説が日本に輸入され、神道と融合し、形成された。朝廷の陰陽寮では、天文暦法とともに、占術祈祷をも司った。また、かの安倍晴明は、密教や宿曜道すくようどう、それにアジア各地の神事芸能までも習合したという。

時代が下るにつれ、だんだん陰陽道に神道の影響が加わってくる。陰陽寮の天文暦法が現実と食い違ってきたためその権威が失墜する一方、金神こんじんの忌みや稲荷信仰のような民間信仰を採り入れた在野の陰陽師が活躍しだしたからだ。のちに、下野して土御門家を名乗るようになった安倍家は、こうした在野の陰陽師を組織化し、権威づけすることで自らの延命を図った。

さらに、決定的だったのは明治時代初頭の神仏分離令、および陰陽寮の廃止である。陰陽寮の廃止により、民間信仰のみが生き残る形となった。そして、神仏分離令は、神仏習合を禁止して神道を上位に置いただけでなく、神道でも仏教でもない宗教を否定することで土着的なものを潰し、それによって近代国家の体裁を整えようとするものだった。この結果、陰陽道系の民間信仰は、神道の一派であるというスタンスを取らざるを得なくなったのである。

そういうわけで、現在、自称陰陽師が神道の呪文を唱えているわけだ。しかし、蘇生の呪文を除霊に転用するのはまずいだろう。不勉強を反省していただきたいものである。

ところで、この話、偽典と関係があるのか? ある。上に挙げた天璽瑞宝。十種のうちのひとつが道反玉ちがえしのたまで、これが偽典中でアイテムとして登場するのだ。その効果は、瀕死の治療。原典に忠実である。おみごと。


小ネタ集

落ち穂拾い的に、並べてみる。

その1。破魔系攻撃魔法の『ハリハラ』。どうやらこれの元ネタは、魔術書『レメゲトンもしくはソロモンの小さき鍵』のようだ。正式には「Hallii. Hra.」と綴り、意味は、「我らが尋ねる問いに直ちに正しき答えをなすべし」であるそうなのだが、かのアレイスター・クロウリーは否定している。

その2。マニュアルがらみのお話。まず、マニュアルにある『デムドエル』の魔法の説明はおかしい。「自らを犠牲にして敵全体に攻撃」と書いてあるが、ゲーム中の解説は、「聖相性の魔法を無効にする暗黒結界」となっており、食い違っている。それと、『リカームドラ』の魔法だが、「自らを犠牲にして敵全体を呪殺する」(マニュアル)とか、「術者の魂を以て敵を呪殺する」(ゲーム中解説)というふうになっているが、ゲーム中の効果を考えると、これもどうもおかしい。大ダメージを与えるのも呪殺っていうんだろうか。ちなみに、この魔法には、HPを128失うだけで唱えることができる、という有名なバグがDOS初期版にあった。

その3。Windows版では不可能になってしまったが、DOS版ではパーティーアタックができた。これの応用編。実は、憑依された者にハンマをかけると、コンディションがいきなり「死」となる。悪魔が追い払われたはずなのに、変じゃないか? しかし、考えてみれば憑依された肉体は、悪魔が破砕された衝撃をまともに受ける。だからショック死ということで辻褄は合うのだ。凝った設定である。余談だが、恐慌が行き過ぎると、狂戦士になるというのもある。一線を越えてしまったわけで、やっぱり芸が細かい。

その4。悪魔と数多く会話していると、ときたま変わったものに遭遇する。そのひとつに、女性の悪魔とHな話をするというものがある。このとき、パーティーに泪がいると、睨まれる。それを無視してさらに行為にまで及ぼうとすると、泪の鉄拳が飛ぶ(笑)。わずかながらダメージを受け、相手の悪魔はふたりの仲を冷やかして去っていく。これがほかの女性キャラにも当てはまるのかはよくわかっていない。

その5。偽典には対化学戦スーツが登場するが、これはやっぱり地下鉄サリン事件の影響なのだろう。そんな制作の裏事情を別にして考えてみれば、対化学戦スーツの存在意義は、あまりはっきりしなかったりする。悪魔が化学兵器を使うことはないだろうし、毒ガスを操る悪魔もそう多くはない。シェルター外の下級悪魔は、毒を使ってくることさえまれなのだ。ムールムールは例外といえる。それとも、シェルターの結界が弱かった時代に、内部に侵入した悪魔に手ひどくやられた経験でもあったのか。

その6。セーブデータ内には、立川惣厳というボツキャラのデータが残っている。僧侶の名前に聞こえるが、呪殺系の魔法を得意とすることから、破戒僧かもしれない。ボツマップとなった築地本願寺あたりで登場することになっていた可能性もある。

その7。新宿都庁解放後の祝宴で、酔っぱらって服を脱ごうとする、土井久美子と高野信彦という人。これも、偽典のスタッフなのだろうか?


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