第9章 冥界下り


根の国の支配者

ミレニアム総本山を出たら、まずは泪の装備を買い換えておこう。デビルコルセット、漆黒の手袋、アダマントギア、エルメスのサンダルあたりがおすすめだ。

ひととおり揃ったら、八咫鏡を持って護国寺へ向かう。八咫鏡と東郷神社で手に入れた榊を結んで、ひもろぎを作り、西洋風の鳥居の下に置く。すると、鏡より発せられた光はあたりをまばゆく照らし、鳥居の下に異空間へのゲートが出現した。

コラム:ひもろぎ

ひもろぎとは、臨時に神を招請するための神座のことをいう。古代より鏡は神霊の依り代よりしろとして、霊的な力をもつとされてきた。とくに八咫鏡は、アマテラス神が天岩戸でその姿を映し、天孫降臨のときニニギノミコトに「私を視るようにこの鏡を視よ」といって遣わした、神霊の宿る宝鏡である。したがって、ここでは神霊を呼ぶというよりむしろ、八咫鏡の霊力を解放するイメージで捉えたほうが適切だろう。なお、榊と八咫鏡を結ぶという点には、ちゃんと神話的背景がある(第3節のコラム参照)。

異空間に入ると、そこはトンネルのようになっていた。周囲の壁が波打っており、妙な圧迫感がある。精神世界で体験したのと同じ感覚だ。少し歩くと、泪がパーティーから離れ、葛城を奥へ誘う。トンネルの突き当たりには少し大きめの部屋がひとつ。

部屋は、見慣れたシェルターの自室だった。泪が語り出す。葛城を愛しい狩人と呼び、「私がまだひとつだったころ」葛城と出逢ったなどという。どうやら前世の話のようだ。前世の葛城は、若く雄々しく、命と引き換えに泪を、つまり泪の前世の存在を望んだのだ、と。

しだいに泪の姿が由宇香とオーバーラップしていく。「私たち、もっと違う時代に生まれていれば、幸せに過ごせたのにね」。葛城はいま、由宇香とともに過ごした夜の幻視ヴィジョンを見ている。「ねぇ、私、どんなに今どきどきしてるか、わかる? 凄いの。止まらないのよ。鼓動が……」。ふたりの姿が交互に現れ、その間隔はどんどん短くなっていく。

「私を愛して……」。泪と由宇香の囁きが混じり合う。突如として暗転した。葛城の頭は混乱し、もはやどちらの声なのかも判然としない。イメージだけが脳裏に渦巻いている。笑い声が耳にこだまする……。

「私を見て!」という声で我に返った。いつの間にか葛城は、どこかの廃屋のような場所で横になっていた。背中には冷たいコンクリートの感触。目の前には泪の顔があり、こちらを見つめている。四つん這いになって、葛城のうえに覆い被さるような体勢だった。豊かな胸が露わになっている。

由宇香のときと同じく、ラブシーンとなる。詳細については自粛するので、各自で確かめていただきたい。一言だけいっておくと、由宇香のときと違って主導権は泪のほうにあるので、拒絶することはできない(拒絶する展開のデータが存在しない)。ただ、拒絶しようとしたり、途中でやめたりすると泪の不興を買うことになり、あとあとの展開に影響する。

コラム:地母神の産道

カバラ文献によれば、アダムの最初の妻はイブではなくリリスであり、性交の際のイニシアティブ(つまり体位)を巡る喧嘩が原因で別れてしまったという。また民間伝承では、その後リリスはサタンをはじめとする多くの悪魔と交わって子を産み、悪魔の女王になったとされる。ちなみに、彼女の娘たちが夢魔のリリムである。ユダヤ/キリスト教の最も厳格な立場は、妻が性的にイニシアティブをとる行為を反倫理的とみなし、いわゆる正常位しか認めない。そうした考え方がこのエピソードには反映されている。

以上を踏まえて、泪とのラブシーンを由宇香とのそれと比較してみると、面白いことに気づく。由宇香のときは正常位、泪とのときは騎乗位になっているのだ。ふたりの性格の違いだ、といってしまえばそれまでだが、ここにはそれ以上の意味が込められてはいないだろうか。泪の行為がリリスを連想させることから、泪の悪魔性を暗示したものとも考えられよう(第12章参照)。

暗示といえば、トンネル状の空間が生き物のようにゆらめいている、というのも暗示的だ。このトンネルが産道を、ここを抜けた先にある黄泉が母胎を表していると考えられるのだ。

記紀神話によれば、黄泉大神よもつおおかみとして死者の上に君臨するのは、「国生み」をしたイザナミであった。この地母神の二面性は、黄泉という世界の二面性に通じる。すなわち、黄泉は死のみならず新しい生をも司る場なのである。したがって、黄泉へ下ることは母胎への回帰を、再び戻ってくることは再生ないしは転生を、それぞれ意味する。葛城は、ここで死と再生を象徴的に体験しているのだ。

そして、ここが地母神的なものを象徴する黄泉へと向かう道だとすれば、泪とのラブシーンが起こったことも、それほど驚くには値しないのかもしれない。ちょっと深読みがすぎるかもしれないが。

ふと気づくと、葛城は黄泉に来ていた。泪もそばにいる。さっきまでのことは、夢か幻のようにさえ感じる。背後には泉があり、お金を払うと使わせてくれて、傷を癒すことができる。地獄の沙汰も金次第というわけ。ただ、CHAOS属性のときは無料だという。それは、黄泉がCHAOS属性を象徴する場所だからなのだ。

あたりに漂う瘴気は、黄泉比良坂でもそうだったが、生者がダメージを受けるほどではない。そういえば、神話でもイザナギ神は黄泉へ降りても平気だった。キリスト教が描く地獄とはずいぶん様子が違うようだ。

先へ進むと、開けた場所に出て、そこにひとりの国津神が現れた。彼はなにか勘違いしているらしく、性懲りもなくまた現れたか、と葛城たちをはじめからオセの手先だと決めつけてくる。オセというのは、黄泉を奪いに来た悪魔の名前らしい。

その国津神は、名をハツセオノミコトという。ここでは、戦闘になる場合とならない場合がある。まず、こちらが名乗ると、葛城がバエルの軍勢を相手に孤軍奮闘していることは知っているようだった。でも、まだ半信半疑。そこで、生者の身でここへ来た経緯を説明する。すると、ようやく納得してくれて、無礼を詫びてくる。これで戦闘を回避できる。また、葛城が瀕死の場合、泪が八咫鏡を見せ、一部始終を話して戦闘を回避することになるようだ。

一方、ハツセオノミコトの質問にうまく答えられなかったり、ちゃんと答えなかったりすると、戦闘になる。とはいえ、鬼神ハツセオノミコトはせいぜいマハザンマを操る程度なので、楽勝である。勝負がついたあと、やや捨て鉢になったハツセオノミコトが、とどめを刺せ、といってくる。ここでとどめを刺すほうを選んだ場合、大国主が現れて止められるパターンと、そのまま斃してしまうパターンがある。これは属性が影響しているようだ。

どの流れにせよ、ここで大国主が姿を見せる。ハツセオノミコトを殺害していないならば、大国主はハツセオノミコトをたしなめ、葛城たちに無礼を詫びて、傷を癒してくれる。いま黄泉は悪魔どもの脅威にさらされており、国津神たちはみな過敏になっているのだとか。そして、脅威の元凶について語り始める。

かつて相馬小次郎なる将門公の転生体が、地獄の総統オセを斃した。しかし、オセは死の間際にコノハナサクヤ姫の霊気に触れたため、深くまで墜ちることなく、黄泉に止まった。しかも、その際大国主たちから神剣・草薙剣くさなぎのつるぎを奪ったのだという。

その後、オセは、大破壊(大国主は魔震災と呼ぶ)のため多くの魂が送り込まれ、潤った黄泉で力を蓄えた。そして、神剣の力が絶大で、国津神たちも手が出せないでいるのをいいことに、黄泉を乗っ取るべく侵略を始めたのである。加えて、これから起こるさらなる大破壊を契機に、地上への復活さえも目論んでいるらしい。

大国主は、葛城に神剣を奪い返してくれるよう頼んでくる。うまくいった暁には、剣を譲ってくれるという。草薙剣、八咫鏡に、ヒルコが持つ八尺瓊勾玉やさかにのまがだまという三種の神器がそろえば、高天原への扉が開かれるとのこと。快く引き受けてあげよう。

余談だが、このストーリーは、コミック版の展開を受けているそうだ。オセがボスキャラとして登場したとか。ちなみに、平将門の通称は相馬小二郎である。映画『帝都物語』でも、相馬の血脈が重要な役割を果たしていた。

それから、大国主が「さらなる大破壊」を予言している点も気になる。これが、カテドラルでの決戦の前に起こった、例の大洪水(『真・女神転生I』)を意味するものであるのかは、定かではない。

ここで、ハツセオノミコトを殺害してしまった場合の展開についても触れておこう。まず、属性がDARKに傾く。それから、大国主にその冷酷さを強く非難され、呪詛の言葉を受けることになる。ただ、彼の捨てぜりふから、オセが神剣を、ヒルコが勾玉を持ち、三種の神器がそろわないと高天原へは行けないとわかる。

コラム:大国主

大国主は、出雲大社の主神であり、因幡の白兎や国譲りのエピソードに登場する国津神のリーダーである。スサノオ神の子孫にあたる。スサノオの娘スセリヒメと結婚し、出雲の支配者、ひいては中つ国全体の統治者となった。スクナヒコナ神とコンビを組んで全国を巡り、国造りを行うなど、数々の業績を残している。国譲りののちは根の国=黄泉を治めた。後世、「ダイコク」で音が共通することから、大黒天と習合され、商業神としても崇められるようになった。

オオナムチの別名をもつこの大地の神霊は、蛇神というルーツをもつ。その和御魂にぎみたまはオオモノヌシという神名で大神おおみわ神社に祀られている。また、葦原色許男あしはらのしこおともいう。多くの別名があるのは、各地の土着神の集合体であるためだ、という説が有力である。

ちなみに、大国主には181柱も子供がいたという。なかでも国譲りの話に登場するコトシロヌシ、タケミナカタは有名だ。

コラム:ハツセオノミコト

なんと出自不明という、謎の神様である。しかも、大国主に仕えて黄泉にいるのに、天津神なのだ。イベントに登場するくらいだからそこそこ有名なはずなのに、正体が明らかにならないとは。いったい誰なのか。

筆者の旧説は、五瀬命いつせのみことではないか、というものだった。五瀬命は、記紀神話に神武天皇の兄として登場する。東征の際に流れ矢に当たり、その傷がもとで落命した。戦死という点がポイントである。ふつうでない死に方をした神は、イザナミのように黄泉に行っている可能性が高いからだ。

これに対し、有力説は、雄略天皇ではないかとする(生体エナジー協会の『悪魔全書』参照)。中国南朝の歴史書『宋書』に登場する倭王武に比定される実在の人物だが、葛城山で天皇一行に化身したヒトコトヌシ神と遭遇したという伝説もある。本名は「オオハツセワカタケ(大泊瀬幼武)」であり、「ハツセオ」に近い。天皇なので当然天津神系である。さらに、暴政の限りを尽くしたとされることから、黄泉へ墜ちている可能性も考えられなくはない。ひょっとすると「葛城」という名前からの連想で登場したということもありえよう。というわけで、これが一番ありそうな説である。

ただ、あえて異説を出すとすれば、崇峻天皇であろうか。蘇我馬子によって暗殺された悲運の天皇で、名はハツセベ(泊瀬部)であった。暗殺されて怨霊になったのならば、鬼神にふさわしいともいえる。

いずれにせよ、決め手に欠ける。が、少なくとも「ハツセオ」は誤記であったという点で、研究者の間に見解の一致を見ている。

コラム:神剣流離

草薙剣は、なぜ黄泉にあるのだろうか。以前、神器は大破壊前に皇居から持ち出され、大破壊後の混乱の中で散逸したのではないかと述べた(第8章4節のコラム参照)。しかし、それでは草薙剣が黄泉にある説明がつかない。実は、謎を解く鍵は源平合戦にあるのだ。

壇ノ浦の戦いにおいて、二位尼(平清盛未亡人)は安徳天皇を抱き、京より持ち出した三種の神器もろとも海に沈んだ。鏡と勾玉は引き上げられたが、神剣はついに見つからなかった。つまり、神剣は二位尼や安徳天皇とともに根の国(黄泉)へ行ったのである。大国主ら国津神はそれを拾い、所有するに至ったのだろう。

ただ、神剣はいまだ現存するとの異説もある。遙か昔、第10代崇神天皇の代に剣と鏡が模造されて宮中に置かれたが、垂仁天皇の代に本物の鏡は伊勢神宮に納められ、ヤマトタケルが用いた草薙剣も今に至るまで熱田神宮で祀られているという。この説によれば、壇ノ浦に没したのは形代かたしろ、つまり一種のレプリカだ。

ここでは、偽典のストーリーに合わせて、壇ノ浦で失われた神剣が本物の草薙剣だということにしたい。としても、うまい具合に神霊は分属できることになっているから、形代を作るのは難しくない。だから、熱田神宮にも神霊が宿った形代が存在しているのだろうし(伊勢神宮の鏡も同じ)、その形代からさらに神霊を分けてもらった形代が、大破壊前まで天皇家に伝わってきたのだろう。そして、これらにも神霊が宿っている以上、必ずしも偽物ではないのである。

大国主の依頼を受けたものとして、黄泉の攻略を始める。オセは下の階層にいるという。ANSは当てにならないので、AMSを頼りに進む(ANSが作動していること自体不思議だが)。出現する悪魔は、地霊ツチグモ、幽鬼ノスフェラトゥ、邪鬼・牛鬼、それに鬼女・黄泉醜女。途中、道反玉を拾える。ワープゾーンから、中間付近にターンテーブルのある通路へ出ると、その先に大国主の部屋が見つかるだろう。周縁部のダークゾーンを移動するのがポイント。

なお、第一層にある黄色い泉では、イベントが用意されている。銘刀備前長船を放り込むと、一度だけ妖刀村正と交換してくれるのだ(銘刀備前長船は、御花屋敷の泉で銘刀肥後守を投げ入れて入手)。妖刀村正は、高い攻撃力と命中率、および攻撃回数を誇る魔剣だ。しかし、呪いの力は強力で、しかも相性が呪殺なので対ボス戦では使えない。だからあまり実戦的ではない。あくまでもお遊び。ちなみに、この泉に妖刀村正を放り込むと、銘刀肥後守と交換になる。

第二層へ降りる。堕天使ベリスと降天使ヴァピュラが出現。いのち×8が見つかる。道を誤ると同じところをぐるぐる回らされるものの、オセの部屋を探し出すのは、それほど難しくないはずだ。

部屋に入ると、オセは、葛城を悠然と見下ろしている。周りを囲んでいるのは、高校生らしき男女。しかし、あるものは翼を生やし、あるものは百目を生じ、異形の魔物と化していた。まさに、地獄と呼ぶにふさわしい光景だった。

オセは、珍しい客人にもてなしを受け取っていただこう、といって、配下の魔人たちを差し向けてきた。まずは悪魔生徒アキラと悪魔生徒ヒロコが、ついで悪魔生徒ヨシオと悪魔生徒ミキが襲ってくる。前者は、アキラのシバブー、ヒロコのタルンダと麻痺咬みつきに注意。後者は、ミキのマカジャマとグラムアイズに気をつけよう。ほかにもそれぞれの性格に合わせた多彩な攻撃を繰り出してくるものの、しょせん葛城の敵ではない。

配下が全滅しても、オセはまだ余裕だ。そうこなくては私の楽しみがなくなる、と笑みを浮かべている。全力で相手をしてくれるそうだ。堕天使オセと戦闘になる。

コラム:オセ

オセは、悪魔学ではソロモン王によって封印された72柱の魔神のひとりであり、30個軍団を従える地獄の大総裁である。大きく優美な豹の姿をし、真紅の斑が入った緑の目をしていることから、豹総統の異名をもつ。ただ、人間の姿をとることもあるようだ。召喚者を諸学問に秀でさせるほか、望む姿に変えることができる。また、人を幻覚によって惑わしたり、発狂させたり、隠された秘密や品物を見つけだす力ももつ。性格は凶暴であり、呪文によって従属させないと喰い殺される危険があるとされる。

攻撃力はかなり高く、両刀の風塵剣でこちらを切り刻もうとする。体力は決して低くないが、ベルフェゴールほどではない。テトラ、マカジャマ、デサマンなどの魔法を操る。こちらから攻めるにあたっては、魔法剣の追加効果で動きを封じるいつもの手が有効だ。

葛城の猛攻を受け、オセは斃れる。二度までも人に敗れたのだ。草薙剣を入手(追補B第2節参照)。この神剣は、強力な魔法剣に匹敵する威力をもつうえ、戦闘中に使用すれば、マハザンマの効果がある(草を薙ぎ倒すイメージ)。追加効果こそないけれども、属性は氷結なので、多くの系統の悪魔に有効である。

葛城がオセを撃破したことには、実は大きな意味がある。国津神たちは草薙剣の霊力ゆえにオセに手を出せなかったというのに、葛城は平気だった。それに、以前オセを斃した相馬小次郎は、人間とはいえ将門公の転生体であった。葛城もまた人間だが、オセを打ち破ったことで、将門公に匹敵する強大な霊的存在の転生体である可能性が出てきたのである。

ここでちょっと話がそれるが、オセは、バエルと繋がりをもたない独立勢力である。そして、精神世界で相馬三四郎が語っていた聖城学園の生徒(第8章2節参照)こそ、あの悪魔生徒たちだった。「キョウコ」の探索といい、相馬の目標は基本的にバエル勢力とあまり関係がない。葛城と一緒に戦ったのは、たまたまそういう巡り合わせだったということなのだろう。

閑話休題。オセの部屋を出ると、フロアから配下の悪魔たちが消えている。上の層へ戻り、大国主の部屋へ。大国主は驚きかつ喜び、約束通り神剣を葛城にくれる。黄泉も当分は平和になるだろうとのこと。また、神剣が霊力を取り込めば、ほかの剣に変わることも教えてくれる。その最強のものは、火之迦具土剣ひのかぐつちのつるぎである。葛城たちが望めば、地上に送り返してもくれる。

さて、DARK属性でオセに会った場合の展開も述べておこう。このとき、オセから取引をもちかけられる。その内容は、神剣を譲るかわりにオセをパーティーに入れ、地上まで連れて行くというもの。断ると交渉は決裂し、戦闘に。逆に承諾すると、契約成立となり、草薙剣が手に入る。

オセを連れて大国主の部屋へ行くと、緊迫した雰囲気になる。黄泉の支配権を争う両巨頭が対面したわけで、当然ともいえる。ここで、大国主と戦うかどうかを選択することに。戦闘になれば、ムドオンやジオンダインが飛んでくるだろうが、苦労するほどの相手ではない。斃したあと大国主から、「現世にとんでもない災いが降りかかるぞ」と警告を受ける。

国津神を相手に戦うことは避けたい、と思うのであれば、この場を去ることもできる。オセは「黄泉を我がものにする」などと息巻くものの、葛城に戦う気がないことを知ると、口惜しそうにしながらも、おとなしくついてくる。いずれにせよ、葛城たちは自力で現世へ戻れてしまう。

黄泉を出て、晴れて自由の身となったオセは喜ぶが、バエルの台頭には眉をひそめた。葛城がバエルを斃しにいく際には協力してくれるそうだ。池袋方面に飛び去ってゆく。シャンシャンシティに行ってみると、オセは以前アバドンがいた部屋にちゃっかり居座っていた。が、当分の間は、「奴を倒すのに十分な時が満ちていない」といわれ、追い返されてしまう。

有明秘密都市

ミュータントたちが住むという有明。次の目標はここだ。銀座から高速道路を通って南下し、芝浦埠頭駅付近へ。これまでは有明からの道が途中でとぎれていたのだが、そこに新しいレインボーブリッジが架かっているではないか。

橋の手前まで来ると、突然、葛城の意識に直接語りかけてくる声があった。噂に聞くヒルコである。多少葛城のことも知っているらしい。有明へとつながる橋を架けておいたので、ぜひ一度参られよ、と招待される。ただ、「側近がそう簡単には会わせぬかもしれぬが」などと奇妙なこともいう。よくわからないが、勾玉の持ち主が向こうから声をかけてくれたのだ。喜んで招かれよう。

長い橋を渡ると、廃墟となった臨海コロシアムが静かに佇んでいた。周囲には誰もいない。中に入ると上へのぼる階段があり、その先には結界で防護された秘密の都市が存在していた。ここにはミュータントだけでなく、わずかながら残った国津神たちも一緒に暮らしている。その指導者がヒルコだというのだから、ヒルコは神にも等しき存在であるということか。

1Fでリジェネレイト7を入手したら、2Fへ。まずは端末にアクセスしてセーブし、それから店をまわろう。その品揃えは圧巻である。

まずは武器屋から。エクスカリバーMkIVやM249ミニミ、それに神弓といった強力な銃・弓、豊富な弾丸類がそろっている。極めつけはドゥルジである。250,000マッカもする超高級品の独銛杵で、特別の法力が込められているため、その威力は火龍剣をも凌ぐ。

防具屋にも、八雲の鎧や白虎の戦衣といった高級品が並ぶ。葛城にヴァルハラヘルム、泪にヴァルキリーアームを買ってやろう。それから、黄金の鱗と黄金のたてがみはニュートンにとって最高クラスの防具となる。ちなみに、黄金のたてがみは、なぜか泪も装備できる。防御力は高いので、美意識に反しないのなら、どうぞ。あと、デスフィンガーは、金縛りを防ぐ力があるが、呪われる。装備としてはなかなかのものなので、あえて身につけるという選択もある。

道具屋では、魔石を買える。ほかでは売っていないだけに、貴重だ。また、薬屋もソーマが置いてある数少ない店のひとつ。店員がさりげなくミュータントだったりする。

住人たちから、話を聞いて回る。彼らミュータントは、大破壊の申し子であり、破壊された東京の真の影を担う存在だ。放射線の影響で異形の存在として産み落とされた彼らは、仲間たちはおろか親兄弟からも疎まれ、虐げられてきたのである。だからこそ、安住の地を求め、あるものは科学に魂を売って神田地下街へ移り住み、あるものは同じ境遇にあるヒルコを頼ってここ臨海コロシアムにやってきた。ここにいるミュータントたちは、国津神とともに日々闘技場で戦って研鑽を積み、懸命にこの地を悪魔の侵攻から守っている。

彼らの指導者ヒルコは、大変優れた頭脳をもち、常に真実を捉え、その判断は的確であるという。また、心の目で、住人たちの行動はおろか、外界の物事すらも見通すことができるそうだ。偉大な存在として尊敬を集めていることがわかる。

ただ、ヒルコは普段多くを語らず、人前に姿を現すこともない。そして、結界の内に外部からの客人を招き入れることも滅多にないという。裏を返せば、葛城はヒルコから特別の存在だと認められたわけだ。それならすぐにでも会ってくれそうなものである。しかし、部屋の前で酒呑童子が頑張っていて、通してくれないのだった。

ヒルコに会いたければ、まずは闘技場へ行け、との情報が得られる。戦いに勝ち抜いた者には、毎回ヒルコが直々に会って褒めてくれるとか。そこで、闘技場へ。道すがら、ブルー・ジル×3とグラスホッパーをアイテムボックスから回収しておこう。闘技場の近くに薬草を置いてあるというのも、なかなかおもしろい。

闘技場で挑戦者となると、連戦になる。聖獣・白蛇、妖鬼・酒呑童子を倒すと、有明一の強者、鬼神タケミナカタが現れる。「なかなかやるではないか。ぜひとも最後は私と手合せ願おう!」。向こうはひとり、こっちは複数。勝つのは目に見えている。せめて新宿爆心地のときのように、一対一の戦いにすべきだったろう。ちなみに、戦いに負けても、ゲームオーバーにはならないようだ。闘技場で傷ついた者はすべて、戦闘後にヒルコの力で癒されるのだという。

タケミナカタを倒すと、葛城たちは戦いを勝ち抜いた勇者と認められる。タケミナカタに連れられ、ヒルコの部屋へ。今度は邪魔されない。

ヒルコの姿を目にして、さすがの葛城も面食らった。培養槽の中に浮かぶ胎児、というのが一番近い表現だろうか。それは未だ人の形をなしていないようにさえ見えた。培養槽は、生命維持装置なのだろう。装置は、それ自身宙に浮いており、一見無力そうなその生命体が、いかなる力を宿しているのかを物語っていた。

ヒルコの声が、テレパシーとなって葛城に伝わってくる。葛城が良い顔をしていると誉めてくれたあと、ここに来た理由を尋ねられる。あんたが呼んだんだろ、とツッコみたいところだが、ここは素直に勾玉がほしいと言おう(ためらっていても同じ展開になる)。

やはり、ヒルコは八尺瓊勾玉を所有していた(注:漢字の表記からは、「ヤサカノマガタマ」ではなく、「ヤサカニノマガダマ」が正しい)。ヒルコいわく、人間に破れたことで国津神たちは発奮するだろう。全体の志気を上げるという功績は、葛城が思っているより大きなものだ、という。ヒルコにはもはや勾玉は不要であり、勾玉があれば三種の神器がそろうという者に対して授けることを躊躇する理由はなにもない。そもそも、葛城を有明に招き入れたのも、神器を持つ人間をその目で確かめたかったからなのだ。

要するに、葛城たちは試されていたのである。ヒルコから八尺瓊勾玉を譲り受ける(追補B第2節参照。装備して歩くとHPが回復し、最高で上限値の倍まで上昇する。この「余った」HPは、病院などで「売る」ことができる)。何個もの勾玉を連ねた、ネックレスのような形状の品だ。これで、三種の神器がすべて手元に集まった。

そのとき、ゾクリとする気配が葛城の背後を襲った。その後を追うように、嫌らしい声が飛び込んでくる。「かつての栄華は見る影もなし。国津神の方々の衰退ぶりは、見る者の心を打ちます。お気の毒なことです」。それは、招かれざる客――デカラビアという悪魔だった。

有明全体には、悪魔を退ける強固な結界が張られているはずだった。なのに悪魔は、それを造作もなく乗り越えてきたのだ。「私は法陣を司る者でしてね。どのような結界であろうと、私には無効なのです」。デカラビアは口元をゆがめた。

「これは、一種のテロだと考えてください」と悪魔はいう。国津神の存在は、バエルたちにとってかなり目障りであるらしいのだ。「滅びの時を少々早めさせて頂きましょう」と口にするが早いか、デカラビアはヒルコめがけて巨大な爆弾を放り投げた。指導者であるヒルコを抹殺するつもりなのだ。

突然のことに動揺し、誰もが身動きをとれずにいた。それを尻目にデカラビアは素早く呪文を唱え、五芳星の光の中に消えようとしている。さて、葛城はどうするか。ひとつには、自らを犠牲にして爆弾に飛びつくという方法がある。もちろん、それでヒルコが助かるという保証はない。もうひとつは、爆弾はあきらめて光の中に飛び込み、デカラビアを追うという選択肢だ。ヒルコは、確実に死ぬだろう。しかし、デカラビアを斃し、仇を討てるかもしれない。

ここでは、爆弾に飛びつくことにしよう。目もくらむ閃光、耳をつんざく爆音。葛城の意識は、瞬時にかき消えた。だが、次の瞬間には、葛城たちは薄暗い空間の中にいた。目の前には、不気味な赤ん坊の姿をしたヒルコが浮かんでいる。それは、まばゆい光とともに、一瞬にして光輝く太陽の子供へと変貌した。

ヒルコは、ふたたび葛城の心に呼びかけてきた。ここは黄泉だが、案ずることはない。古き衣を打ち捨て、新しきを得るのみである。しかし、汝らはまだ勤めが終わっていない。今ひとたび古き衣を纏わねばならない――葛城たちはまた意識を失った。

コラム:ヒルコ

水蛭子または蛭児と書く。記紀神話によれば、イザナギとイザナミがまだ混沌としていた地上に降り立って日本列島の島々を生もうとしたとき、最初に生まれた子であった。成育が悪く、3歳になっても足が立たなかった(蛭のように骨がなかった)ため、葦船に乗せて海に流された。残酷な話であるが、昔は「間引き」と称して幼児を殺す習慣があったくらいだから、それを思えば驚くには当たらないのかもしれない。

この話には続きがある。「えべっさん」で知られる西宮神社に伝わる伝説によれば、海を漂ったのち摂津国西浦(兵庫県西宮市)に流れ着いたヒルコは、土地の人に育てられ、のちに戎大神えびすのおおかみとして祀られたという。これが七福神の恵比寿さまである。豊漁、航海の安全、交易の守護神とされ、豊漁が転じて商売繁盛の神となった。

このように、ヒルコは出自からいえば天津神たちの兄にあたる存在だが、土着の神すなわち国津神としての性格ももつ。なぜ、こうした伝説が生まれたのだろう。どうやら、イザナギ・イザナミのルーツは淡路島の海洋神らしい。それなら、その子が対岸の地で豊漁の神様とされても、それほど不思議はないといえよう。

また、イザナミが地母神であるのに対し、イザナギは天空神であり、だから太陽神や月神の父となった。ところで、アマテラスの別名は、天照大日霎尊あまてらすおおひるめむちのみことという。つまり、「ヒルメ」だ。これは、ヒルコと対になっている。ヒルコは、「日子ひるこ」に通じるからだ。イザナギが生んだ三貴子がそれぞれ日・月・暗星ラーフに対応すると考えると、太陽を喰らう暗星ラーフこそ、ヒルコの役割である。言い換えれば、ヒルコはアマテラスに取って代わりうる存在だったのであり、高天原の統治者としての資格があったのである。

偽典に登場するヒルコは、ミュータントであると同時に、国津神の血をひく末裔だったのだろう。そうした出自があればこそ、双方の長たりえたのだ。また、ヒルコはアマテラスの影ともいえる存在だから、国津神の頂点に立つにふさわしい。そして、死してその本質が現れ、「光輝く太陽の子供」となったのである。ここにも、死と再生のモチーフが顔をのぞかせている。

なお、転生後のヒルコと、東京ミレニアムの地下世界でミュータントの長老となっていたヒルコ(『真・女神転生II』)が同一人物であるかは、明らかではない。

目が覚めると、そこは芝浦埠頭、つまりレインボーブリッジのそばだった。ヒルコの超常的な力によって架けられていた橋は、消えてしまっていた。メンバー全員のHPが1しかないので、まずは傷を癒すべき。ステータスを見ると、少し属性がLAWよりに傾いているはずだ。

そこへ、瞬間移動でミュータントの女性が現れる。彼女は、葛城たちの無事を喜ぶ。が、ヒルコが亡くなったと言うや俯いてしまった。そこで、黄泉での体験を話してあげると、曇っていた顔がぱっと明るくなった。ヒルコ様がいつか我らのもとに帰ってくるかもしれない! 女性は葛城に礼をいうと、うれしいニュースをみんなに報せるべく、現れたときと同じく瞬間移動で帰っていった。黄泉の話をしない場合、女性は、まだどこかに潜んでいるデカラビアに注意するようにいい、去っていく。

高天原異譚

三種の神器がそろったので、次の目的地は高天原だ。そういえば、東郷神社の老人の話では、証を持つものは東郷神社の隠し通路を通ることが許されるということであった(第4章6節参照)。それは明治神宮につながっているのだ。いかにも、何かありそうである。

東郷神社へ。例の老人がいて、葛城たちが証となる三種の神器を所持していることを確認すると、ふっと姿が見えなくなる。老人の正体はわからずじまいだったが、たぶんこの地の守護霊であろう。元はここの神主だったのかも。

本殿に接する森の一角で、八咫鏡が突然反応し、輝き始める。それが収まると、道の真ん中に黒い穴がぽっかりと開いた。異空間へのゲートというよりは、地下につながるシュートである。

降りた先の地下通路は、洞窟のようになっていた。岩を切り開いただけ、といった感じの場所だ。しかし、直線ルートが多用されているあたり、計画的に掘削されたことを窺わせた。しかも、この洞窟全体が一種の霊的力場を形成しているため、三種の神器をそろえないままここに足を踏み入れた場合、一歩ごとに大きなダメージを受けることになる。

通路を進んでいくと、しめ縄が渡されている場所に突き当たる。強力な結界が張られているため、それ以上先へ進むことができない。結界を破るためにはしめ縄を切らなければならないのだが、魔力が込められた武器でさえもあっさりと弾き返されてしまう(このとき、葛城の身体に衝撃が走り、ダメージを受ける)。見事なくらい完璧な結界だ。

このしめ縄を切ることができる武器はただひとつ。草薙剣だけである。草薙剣に持ち替えた葛城が剣を振り下ろすと、しめ縄は音も立てずに真っ二つになって地面に落ちた。物足りなさを覚えるくらいあっけない。結界は消滅し、通過できるようになった。

道なりに奥へ進んで、最深部へ。そこは広いドーム状の空間で、突き当たりの場所には、しめ縄でくくられた巨大な岩が置かれていた。周りには死者たちの霊が漂っていて、みんな困り果てた様子。彼らは生前の行いが良かったために、高天原に昇ることを許された者たちなのだが、入口を岩に塞がれてしまっているのだ。

この岩を何とかしないと、葛城たちも高天原へ行くことができない。だが、しめ縄の霊力は強大で、岩を動かそうとしてもビクともしない。そこで、ふたたび草薙剣を振るう(ほかの武器では岩にひび一つ入れることができない)。しめ縄を切ったら、次は岩をどかす番だ。ここは人の力では難しいので、仲魔を召喚する。(能力値の)体力が高くないといけないが、ちゃんと仲魔を集めていれば、COMP内に一体はいるはず。

葛城の指示を受けて仲魔が岩を動かすと、隙間から光が漏れてきた。高天原への道が通じた。死者たちの霊は喜び勇んで光の穴の中へ消えていく……。

コラム:天岩戸

このイベントは、天岩戸あめのいわとのエピソードをモチーフにしている。有名なのでみなさんご存じかもしれないが、手短に述べる。

アマテラスが岩戸を閉じて隠れたのは、スサノオの暴虐な振る舞いに怒ったためだった。太陽神を失った世界は真っ暗闇となり、悪神の声が満ちあふれ、あらゆる禍が至る所に発生し始めた。そこで、八百万の神々が集結し、高天原一の知者オモヒカネ神が一計を案じる。

まず、夜明けを告げる常世の長鳴鳥=鶏を集めて鳴かせた。次に、八咫鏡と八尺瓊勾玉を作らせ、これらを天の香具山から採ってきた榊に結びつけて供え物とし、アメノフトダマ神に捧げ持たせた。そして、岩戸の前でアメノコヤネ神が祝詞を奏上する。

それから、アメノウズメという女神が、たすきや髪飾りを身につけ、笹の葉を手に持ち、伏せた桶の上に乗って踏みならしつつ、衣服をはだけて踊り狂った。それを見た八百万の神々は、高天原が揺れ動くほどの勢いでどっと笑ったという。

この騒ぎに興味を示したアマテラスが岩戸を少しだけ開けると、アメノコヤネとアメノフトダマがその隙間に八咫鏡をそっと差し出した。鏡に映った自分自身の姿を不思議に感じたアマテラスは、もっとよく見ようとして岩戸から身を乗り出す。このとき、戸の陰に隠れ立っていたアメノタヂカラヲ神が、アマテラスの手をつかんで引っ張り出した。そのあとすぐさまアメノフトダマが岩戸の前にしめ縄を張って、二度と岩戸に籠もれないようにしたのだった。

天岩戸に張られたしめ縄、というマイナーなポイントが偽典のストーリーに活かされているわけだ。凝った設定である。また、このエピソード全体が、太陽神の「死と再生」というテーマに貫かれていることにも注目しておきたい。

コラム:封神の犯人

このしめ縄付きの巨岩は、誰の手によるものなのだろうか。天津神たちが自分から閉じこもったわけではないので、外部の者の仕業ということになる。その者は、天岩戸のエピソードを踏まえたうえで、悪意あるパロディを試みたと思われる。それはいったい誰か?

それを解き明かす前に、まず確認しておこう。通路に渡してあったしめ縄は、はじめからあったものだ。そうでなければ、死者の霊も岩の前まで来られなかったはずだから。あれは、邪悪な霊や悪魔の侵入を防ぐために用意されていたのだろう。だから、人間が通れないのは副次的な効果にすぎない。そもそも並の人間には、侵入することすら叶わない空間なのである。

それに対し、岩にくくられていたしめ縄は明らかにもっと強力なもので、あらゆる者の通行を拒んでいた。通路のしめ縄に用いられた呪法を応用したのだろう。これを仕掛けた「誰か」は、この空間を包む霊的力場をものともせず、しめ縄の結界をやすやすと乗り越え、しかもその呪法を手並みも鮮やかに応用する力量を有していた。かなり高位の神格でなければ、これだけのことはできない。

ここで思い当たるのが、「法陣を司る」悪魔デカラビアである。結界について極めて深い知識をもつこの悪魔なら、岩を置いて通路を塞いだうえ、しめ縄を用いた結界で封印するといったことも、やってのけただろう。それに、デカラビアが犯人なら、明治神宮の森で悪魔がうろついていたことの説明もつく。奴らは不審者が近づけないように見張る役目を負った、護衛の悪魔だったわけだ。ハリティーを封印したのがバエルだったことからも、この線がたぶん真相だろう。

ただ、もう少し穿った仮説も挙げておこう。天使たちの仕業というものだ。どの天使もみんなファニエルのように高潔とはかぎらない。カマエルをはじめとする、死と破壊を司る天使たちもいる。のちの東京ミレニアムでも、エグゼクターやターミネイターといった、「影」のメシア教徒がいた。天使の裏部隊が実行犯である可能性も否定できない。その目的は、きたるべき千年王国にとって邪魔になる、ローカルな神々を封印してしまうことにあっただろう。

この場合、最初のしめ縄の結界は作動すらしなかったかもしれない。また、注連縄の呪法を応用することも、それほど難しくなかったと思われる。というのは、鈴木大司教いわく「天津神族はヘブライ神族と同系統である」ので、いわば手の内は読めている面があるからだ。

そして、高天原が封印された結果、本来は神聖な場所であるはずの明治神宮の森は力を失い、悪魔が棲みついたのだろう。ただ、一連の考察が正しいとしても、その天使たちに命令を下したのが唯一神だったかどうかまではわからない。一部の天使の暴走かも。

高天原に立ってみると、そこは、床だけでなく、壁や天井に至るまで光り輝いていた。霊的な光そのもので作られているようだった。邪悪な悪魔などいるはずもなく、鬼神タヂカラオ、鬼神タケミカヅチ、霊鳥・八咫烏という天津神のみが出現する。なるべくなら戦いを避けて仲魔にしたいところだが、葛城の属性がLIGHTでないと無理なようだ。鬼神や霊鳥は合体の素材として貴重なのだが。

内部はワンフロアながら複雑な構造になっており、ワープゾーンが連続しているので探索は容易ではない。だが、くまなく回れば数多くのアイテムを発見できるので、時間をかけるだけの価値はある。反魂香、学人の香、匂い玉×3など。また、隠し通路の先にある小部屋には、宝箱が置かれている。毒針のトラップが仕掛けられているが、櫛名田の酒甕を入手できる。

さらに、どこかに最強の弓である天津弓が眠っている(ヒントは、固定悪魔の鬼神タケミカヅチ)。威力・命中率ともに抜群で、ワンランク下の神弓を遙かに凌ぐ。ただし、使いこなすには人間離れした器用さ(36)と体力(30)が要求される。なお、天津矢も同時に見つかる。

加えて、泉では交換イベントも起こる。青い泉に銘刀備前長船を投げ入れると、一回だけ銘刀正宗と交換してもらえるのだ。銘刀正宗は、妖刀村正と違って呪われることもなく、攻撃力・命中率が高いので、なかなか使いでのある剣だ。交換しておいて損はない。ちなみに、この泉に銘刀正宗を投げ入れると、銘刀肥後守に戻ってしまう。黄泉と同じパターンだ。また、妖精の出る泉に妖刀村正を投げ入れると、妖刀竹光と交換してもらえる。最弱レベルの武器なのに呪われるという、ナンセンスなアイテム。あと、うかつに武器を投げ入れると、「金塊?」というがらくたアイテムに変化してしまう泉もあるので要注意。

余談だが、属性がLAWの場合、泉の番人はお金を要求せず、自由に使わせてくれる(ふつうはレベル×50マッカの使用料を取られる)。また、ダメージゾーンでも受けるダメージがかなり緩和されるという。黄泉がCHAOS属性を象徴する場所だったのに対し、高天原はLAW属性を象徴する場所なのだ。

周りをダメージゾーンに囲まれたエリアに、高天原の主、アマテラスの座する部屋がある。アマテラスに会うと、はじめに傷を癒し、瀕死を回復してくれる。ついで、高天原の神々を代表して、岩戸を開けてくれた葛城に感謝の言葉を述べる。もしあのまま現世との絆を断たれた状態が続いていれば、死者の魂が昇天できないばかりか、高天原が消滅した可能性すらあったという。つまり、人間界とのつながりを失って生体マグネタイトを補給する術を失えば、神々といえども無力化されてしまうのだ。

お礼として、アマテラスから『トコトノカジリ』という魔法を授かる。漢字で書くと十言神咒。「アマテラスオホミカミ」の十文字の言葉が鍵となり、太陽神の霊力で悪魔たちを浄化するという強力な魔法だ。唯一神の力を発現する『エリコ』の魔法(同名の街の城壁を粉砕したという旧約聖書のエピソードに基づく)を凌ぐ威力をもつ。それだけに、力の消耗も少なくない。無闇に使うな、と忠告される。

そのあと、アマテラスから依頼を受ける。昨今、バエルの横暴が目に余る。一方、バエルを阻止すべく出陣したヘブライの天使たちも、じょじょに勢力を拡大している。このままでは日本の神々は衰退するばかりだ、とアマテラスは嘆く。これ以上、バエルやヘブライの神々にこの地を蹂躙させておくわけにはいかない。そこで、日の本の国を守るため国津神と和解し、天津神と国津神の対立を終わらせようとおもう。葛城には、そのための使者になってほしいというのだ。神界と現世との絆を取り戻してくれたように、国津神との絆も取り戻してくれるだろう、と。

アマテラスは知らないようだが、葛城は国津神にも顔が利く。使者としては適任だ。それに、神々どうしの喧嘩が収まるなら、悪い話ではない。引き受けることにする。アマテラスは喜び、鬼神ヤマトタケルを同行させてくれた。腕の立つ仲魔だ。高天原をあとにする。

ちなみに、依頼を拒否すると懇願されるが、断固として拒絶することも可能。それでも、さすがというべきだろう、怒った様子も見せず、「お主はお主自身の道を歩まれよ」といって部屋を送り出してくれる。日増しにバエルの軍勢も強力になってきているので用心するように、というアドバイスまでつけて。

なお、このイベントをクリアすると、以後高天原へは明治神宮から行けるようになる。森にいた悪魔たちは消え失せている。

神々の和解

ふたたび芝浦埠頭を訪れると、失われたはずの有明への道が復活している。新しいレインボーブリッジのそばまで来ると、あたりに声が響いた。アマテラス神の使者である葛城たち一行を、歓迎するとのこと。有明の人々は、葛城たちがやってくることを知り、橋を架けておいてくれたのである。臨海コロシアムへ。

秘密都市は、沈鬱な雰囲気に包まれていた。指導者を失ったのだから無理もない。ヒルコ様が亡くなったなんていまだに信じられない、という声も聞く。将来への不安は募るばかり。ヒルコの跡を継いだのは、あのタケミナカタだった。事件以来、国津神とミュータントの結束はむしろ強まったというから、彼の手腕は悪くないようだ。

以前ヒルコの居所だった部屋で、タケミナカタに会う(このとき、傷の治療や瀕死の回復などを行ってくれる)。アマテラスからの提案を、葛城からタケミナカタに伝えた。だが、色よい返事は返ってこない。「にわかには信じがたい。アマテラスの真意が掴めぬ現状では、両手放しに申し入れを受けるわけにはいかぬ」

それを聞いて、ヤマトタケルが怒り出した。アマテラス大御神様を信用できないと申すのか、と。そうではない、とタケミナカタは返す。バエルどもが地上を支配するいま、対立しあうことが双方にとって不利益であることは明白。国津神にとっても、申し出はありがたい。しかし、ヒルコ亡き後、国津神やミュータントたちの命運は、タケミナカタの双肩にかかっているのだ。過ちは許されない。だからこそ、真意をしっかりと掴みたいのだ、とタケミナカタは力を込めて言うのだった。

とはいえ、ヒルコという偉大な指導者を失い、形勢の悪化は隠せない。このままでは、多勢に無勢でバエルの軍勢に潰されてしまう。「もはや国津神、天津神などという次元の問題ではない。日本を守るか否かの問題だ」。ヤマトタケルが熱弁を振るった。もし天津神側に何か策略があったとしても、それはバエルらとの戦いが終わってからでしかありえないだろう、と説く。

その言葉を聞いてアマテラスの真意を見極めたタケミナカタは決断し、同盟の申し出を受け入れる。外来の悪魔たちと戦うために。ここに、争いとそして征服・被征服の歴史は終わりを告げ、神々が手を取り合う時代が始まった。

コラム:神話的論争

タケミナカタは、同盟の話をもちかけられて逡巡しているが、そこには、天津神と国津神の、根深い対立の歴史が影を落としている。彼がいうアマテラスの「真意」には、将来にわたっての影響をどう考えているのか、ということまで含まれていたようだ。たとえば、一方的に同盟を破棄されて攻め込まれたらどうなるのか。防ごうにも、情報はすでに筒抜けになっている。また、同盟の主導権を天津神が握ったらどうなるのか。国津神は巧妙に支配下に置かれることになりはしないか。彼は、そうしたことを警戒したのである。だから、安易に手を結ぶことはできないと答えたのだろう。

ヤマトタケルにすれば、いま力を合わせる必要があることを極力強調することはもちろんだが、征服の意図はない、ということも言わないと、タケミナカタを説き伏せられない。そこで、われわれに策略があっても、それは将来のことだから、最悪でも将来対応できるではないか、と説得したのである。

役目を終え、ヤマトタケルは葛城に礼を述べると、アマテラスに報告すべく高天原へ帰還する。チョイ役の感は否めない。ちなみに、これ以降は合体で作れるようになる。

タケミナカタは、さっぱりした様子だった。天津神と手を結ぶことは、ヒルコの遺志に沿う正しい選択であった、という。これから先、結果はともかくやれる限りのことをやろう、と決意を新たにする。葛城のような若者を見たことで、未来への希望が湧いてきたようだ。「われらも負けてはおられぬ」。タケミナカタは哄笑し、葛城の背を叩いた。

同盟成立のニュースは、すでにミュータントたちの間を駆けめぐっていた。彼らは、期待と不安がない交ぜになった感想を漏らす。一方で、バエルに負けないため、日本の神々の内部分裂を終息させるのは至極正しい判断で、ヒルコ様も同じようになさったはずだ、と積極的に評価する声がある。他方で、かつて利己的な振る舞いを見せた天津神とうまくやっていけるのか、との意見もある。それに、もしうまくいったとしても、そのために今度はミュータントの立場がなくなり、ふたたび流浪の民に戻らねばならなくなるのではないか、と心配する者もいるのだ。ただ、おおむね好意的に受け取られてはいるようだが。これからは有明にも天津神たちが降臨し、交流を深めていくことになるだろう。

なお、高天原に行ってアマテラスに会ってみると、ご恩は忘れませぬぞ、とたいへんに感謝されるが、謝礼などは出ない。アイテムをプレゼントしてくれるとか、イベント達成で経験値が増えるとかすれば良かったのに。

また、各地で聞ける住民たちの話が少し変わっているので、チェックしておこう。バエルは、凄く強力な悪魔をこの世に復活させようと目論んでいるとの噂が流れている。それから、マイシテーにいる女の子が見たという夢。顔は怖いが、すごく優しい悪魔が現れて、子供たちを助けてくれるのだとか。その子の予知夢はよく当たるそうだが……。

今回はここまでにしよう。次回、乞うご期待。


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