その2 偽典はやっぱり偽典?


まずは前説

コラムのページに書いている文章というのは、書くのに非常に時間がかかる。雑誌の記事をベースにして書いているのだから、すぐにできそうなものなのだが、満足のゆく形に仕上げるのには結構苦労する。

しかし、あまり時間をかけすぎるとなかなかサイトを更新できないので、たまには息抜きというか、「つれづれなるままに日暮らし硯に向かいて……」ではないが、好き勝手なことをダラダラと書いてみるのもいいかなと思った。そこでこの企画「ひとりごと」ができたわけだが、これさえもなかなか書く暇がなくて困っている。

……という感じでひとりごとをこれからも続けていくことにする。頭に浮かんだそのままを文章にしていくやる気のなさがいいのだ。で、今回のテーマは知る人ぞ知るPC用ゲーム、「偽典・女神転生」である。

覚醒

女神転生シリーズといえば、スーファミやサターンなどで有名なRPGだが、もう何年も前からパソコン版のシナリオが出ることがアナウンスされていた(構想は'93年夏頃からあったし、当初の発売予定は'95年中だった)。しかし、何度も発売日が延期され、ようやくお目見えしたときには'97年4月になっていた。

旧約聖書には正典のほかに外典と偽典があるが、「偽典・女神転生」はそれにならって名付けられた。もう一つの女神転生、シリーズの番外編ということだ。こんなマニアックな名前になっているのは、作者が鈴木一也だからだ。シリーズ中に登場するガイア教の、大司教をみずから名乗る男である。こいつはオカルトを窮め尽くしている。荒俣宏に匹敵するんじゃないか。こいつが作るからには、内容がヘビーなものになるのは分かり切っていた。そして、みんなそれを待っていたのだ。

だが、ファンの期待を集めて登場したこのゲームは、Windows 95全盛のご時世にあって、DOS用ゲームでしかもPC-9800シリーズでのみ動作するという、恐ろしく時代錯誤な代物だった。開発が始まってから発売まで3年以上もかかったのだから当然といえば当然なのだが、それにしても最後まで開発を中止しなかった度胸は素晴らしい。

胎動

DOS用ゲームと言っても、あの名作QuakeもDOS上で動きながら多くの人々を熱狂させたわけだが、さすがにPC-9800シリーズはつらい。640×400ドット、4096色中16色のグラフィックにFM音源ときている。いちおうMIDIにも対応しているのだが、RolandのSuper-MPUが必要、などとはどういう了見なのだろう。これではせっかくのMIDIのサウンドも、ほとんどの人が聞けないまま終わってしまうに違いない。とにかく、いまのWindows用ゲームを見慣れている人には、貧弱なものに映ってしまう。

とはいえ、このゲーム、内容的には決して駄作(いわゆるくそゲー)ではない。むしろ、女神転生(メガテン)の名に恥じない名作と言える。壮大なシナリオ、掟破りのイベント、さらには緻密な悪魔との会話システムなど、どれをとってもメガテンフリークをうならせる内容に仕上がっている。たとえば、シナリオについては、例によって大破壊後の東京を中心に展開するのだが、強大な悪魔とそれに必死で抗おうとする無力な人間たちという構図は、エヴァンゲリオンのファンからも共感を得ることができるだろう。イベントにしても、ゲームを始めて数時間でヒロインが殺されてしまうなど、なかなか楽しませてくれる。

決戦

実際、このゲームにはかなりハマッた。シリーズの通例らしいのだが、ゲーム中のヒントが少ない。いったんイベントが始まると、どんどん続いていくのだが、連続するイベントと次のイベントとの間が、大変なのだ。文字通り格闘するハメになった。

情報収集については、[ Fan of The DDS-NET ](『Fan Support DDS TOKYO GHOST』に改称して移転後、終了。現在は一部のコンテンツが『神 楽 文 庫』に移転)にかなりお世話になった。発売当初の4月中はものすごい量の書き込みがあり、それに対応すべくコンテンツが整備されていったという逸話をもつ。ここの情報がなければ、クリアにはもっと時間がかかっていただろう。

時間がかかる原因はほかにもある。悪魔(女神転生シリーズでは、敵も味方も含めて、人間以外の存在をこう呼ぶ)との対話、そして女神転生を女神転生たらしめている悪魔合体である。より強い悪魔を味方につけ、さらにより強い悪魔を合体で作り出すためには、膨大な試行錯誤の時間が必要になる。もちろんこの時間は苦痛ではない。楽しいのだ。楽しいからあっという間に時間が過ぎてしまう。だから問題なのだ。しかし、似たようなことはほかのゲームでもよくあることだ(ダビスタとか)。

転生

長所も短所もある「偽典・女神転生」だが、個人的にかなり気に入った私としては、このゲームをこのままにしておくのはもったいないような気がしている。なんといってもPC-9800シリーズ+DOSでしか動かないというのは寂しすぎるではないか。Windows 95に移植してほしい。あの「イース」や「ドラゴンスレイヤー英雄伝説」、「ロードス島戦記」さえも移植されたのだから、パソコン版の女神転生として広く認知されるためには、やはりWindowsで動かなければならない。

で、移植を前提に、どこを改良してほしいか挙げていこう。

まずはグラフィックとサウンド。グラフィックについては、全部描き直してもらうしかない。800×600ドット、256色ぐらいがいいだろうか。あと、曲はもちろんMIDI。効果音はPCMでかっこよく。操作性は、多少癖があったが、これはそれほど気にしなくてもいい。すぐに慣れたから。

次にシナリオ。ヒントを少し増やす必要があるだろう。明らかに削ったと思われるイベントは復活させて(上野の西郷さん、ヒロインとペンダント、ラビスシジルの石版も?)、イベント全体を整理し直し、つながりをよくさせる必要がある。とくに臨海コロシアムと天岩戸のイベントに進むところは、何とかしてほしい。シナリオが進まなくなるなんて、ただのバグではないか。

あとは、新宿都庁。悪魔に襲われた、という噂を聞いて帰ってみると、付近の住民がみんな平気な顔で暮らしを続けている、というのは不自然だろう。デマだったのなら、せめてそういうメッセージを誰かに言わせるべきだ。それと、誤解が解けてレジスタンスと和解する、という部分がない。無実の罪で追放されたのはわかっているはずなのに、レジスタンスの秘密基地には最後の最後まで入れないのだ。これもおかしい。

アイテムと悪魔についても整理・追加してほしい。いらないアイテムがいっぱいある。悪魔は、種族によって多すぎたり少なすぎたりしている。もう少し手を加えればよくなると思う。

最後に、これは非常に重要なのだが、バグを何とかしてほしい。名前のないアイテムにアイテム欄を埋められたり、進めないはずのところに進めてしまったり(行き止まりのところを、クリックの具合によっては飛び越えられる)、逆に進むべきイベントが進まなかったり(解放したはずのお茶の水シェルターが、いつまでたっても復興しない)している。イベント進行中、自動で動いているときに画面をクリックしたら動きが止まってしまい、イベントが進まなくなった、という話も聞いたことがある。とにかく、バグが多い。これは製品への信頼性を失わせるから、移植の際には十分注意してほしい。

とまあ、これくらいだろうか。上記の要望を満たしてくれれば、きっと「偽典」は生まれ変わることだろう。逆に言えば、(移植するとして、だが)移植してもあまり変わっていなければ(いい加減なバグフィックスとグラフィックの書き直しだけとか)、「偽典」はいつまでも正典に及ばない異端であり続けることになるだろう。


【 コメント 】

これ書いたのももう1年前なんだなあ。こうやって振り返ってみるとけっこう懐かしい。最初のぼやきの部分とか、見出しの付け方とか、文体とか、何とか工夫しようって熱意が空回りしてるようで、ほほえましいってゆーか、バカバカしいってゆーか。若気の至りだな、完全に。今回ほんの少しだけ手を入れたが、99%はそのまんまだ。まあ、こんなときもあったんだなって感じで、記念に残しておこうか。

しかし、この当時は本当に偽典がWindows 95/98に移植されるとは考えてなかったんだが、まさか実現するとはね。いま個人的に要望することは、シナリオの奥深さを追求してほしいってこと。ファンの期待をいい意味で裏切ってほしい。グラフィック云々なんて二の次でいいのだ。

【 さらにコメント 】

上のコメントを書いた時点では、Windows版「偽典・女神転生」は、遅くとも'99年第1四半期中にはリリースされるはずだった。しかし、実際にはこれを書いている時点で、「リリース時期未定」という恐ろしい事態が勃発している。

噂によると、開発を委託した会社でプログラマーと経営者の間にトラブルが発生し、作業どころではなくなってしまったのだという。あくまで噂なので信憑性に関しては保証の限りではないが、もしこれが事実だとすれば、年内のリリースは絶望的なように思える。

それでも、東京ゲームショーにはひっそりと出品されていたようだ。これについても、「グラフィックスが変わっていなかった」などのネガティブな情報が流れており、「いい加減なバグフィックスとグラフィックの書き直しだけ」の移植に終わる可能性も高い。

「シナリオの奥深さを追求してほしい」という、このゲームのファンなら誰しも思うであろう要望は、もはや叶えられないのだろうか。たとえばこれがFalcomなら、移植の際にシナリオを見直すことも当たり前のようにやっている。Falcomにできて、なぜASCIIにできないのか。せっかくいい素材をもったゲームなのだから、それなりの扱いをしてやらないと、もったいないではないか。事態の好転を、心より願う次第である。


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