○魔獣 獣族系

タムズ
 スペインの幻獣。巨大な蠍、あるいは半人半蠍の姿とされる怪物。
 その起源はイシュタルの夫あるいは愛人であるバビロニアの穀物神タムズ(Tammuz)であり、古くはフェニキア(カルタゴ)植民地時代に豊穣神として土着化し、イスラム勢力下にあった時代までイベリア半島にて長らく信仰されていたものが、同地がキリスト教勢力の支配下に入ってから貶められ、敵対者たる蠍(ギルタブ)と融合(女神転生風に言うならば悪魔合体か)して蠍の怪物タムズ(Tames)となったものと推察される。後代には悪魔とも見なされ、地獄のスペイン大使であり炎、焼網、火刑台を支配する悪魔タムズ(Thamuz)となった。その象徴の背景には同地の苛烈な魔女狩りがあると思われる。
 穀物神タムズは大地(あるいは太陽)の再生のために殺される(生贄にされる)存在としてオリエントで広く信仰され、一時はユダヤ教にさえ取り入れられた。カナーンではアドン(「主」)と呼ばれてバール神と同一視されている。ギリシャに入ってオリオンあるいはアドニスとなり、キリスト教においては聖トマスとなった。

ケルベロス
 ギリシャの幻獣。冥界(タルタロス)の青銅の門を守るハデスの忠実なる番犬。Kerberosは「底なし沼の霊」の意。
 怪物テュフォンと蛇女神エキドナの子。3つ(50あるいは100とされることも)の頭と龍(あるいは蛇)の尾を持ち、顎あるいは背中に無数の蛇の頭が生えているという。なお女神転生世界では1つ頭の獅子のような姿で描かれ、またオルトロスの兄とされる。
 ヘレニズム期のエジプトではセラピス神の従者とされたがそこでは狼、ライオン、犬の三つ首を持ち下半身は蛇という姿に変容している。また後代にはソロモン72柱の一員”勇猛公爵”ナベリウスと同一視されて悪魔ともされた。
 『真・女神転生 東京黙示録』(コミックス版)では地獄の総統オセの手先として登場し主人公相馬小次郎を襲うが、バリ島の像の魔力に敗れて囚われ、小次郎の愛犬パトラッシュに身を移してその配下となった。その後小次郎を助けて八面六臂の活躍を見せるが、最終決戦前に魔力を使い果たし、結局最後は登場せずじまいであった。

ストーンカ
 不詳。ブルガリアに伝わる牝牛の怪物らしいが?現在調査中。

オルトロス
 ギリシャの幻獣。世界の果ての島エリュティアー(イベリア半島のことらしい)に棲む怪物ゲーリュオーンの双頭(一説には三つ首)の番犬。
 怪物テュフォンと蛇女神エキドナの子。また母エキドナとの間にネメアのライオンとスフィンクスをもうけている。ゲーリュオーンの牛を奪いに来たヘラクレスと戦うが、棍棒の一撃で殺されている。なお女神転生世界では1つ頭の獅子のような姿で描かれ、ケルベロスの弟とされている。
 『真・女神転生 東京黙示録』(コミックス版)では地獄の総統オセの手先として登場し相馬小次郎らを襲うが敗れ、小次郎に下った兄ケルベロスに力を譲って死んでいる。

葛の葉
 『信太妻』伝説に登場する女狐。信太明神の使いとされる。「葛の葉」の名は後に便宜上つけられたもので元々は無名。
 大陰陽師安倍晴明の母。狐狩りに追われていたところを安倍保名に助けられ、それが縁で(一説には保名の婚約者に化けたとも)夫婦の契りを結び一子童子丸(晴明)をもうける。しかし秋の乱菊に心を奪われて化性の姿を顕わした為、形見の一首(「葛の葉」の名はここから取られている)を残して信太の森に帰った。その後森をたずねてきた保名、晴明親子に会うも帰ることを拒み、代わりに晴明に竜宮の箱と宝玉を授けている。この宝物の力で晴明は大陰陽術師になったという。

参考:魔獣 キツネ

ガブリエルの猟犬
 イギリスの妖怪。空を駆け行く猟犬の群れ(の声や音)。ガブリエルの猟犬(Gabriel RatchetsあるいはGabriel Hounds)はランカシャー地方での名称。他地方では聖デイヴの猟犬、あるいは悪魔の猟犬、七人の笛吹き等々の名で呼ばれている。
 罪人あるいは洗礼を受ける前に死んだ幼児の魂を駆り出す天の猟犬たちとも、悪魔の使いともされた。猟犬たちを率いる猟師の姿がみえることもあるらしい。この猟犬たちが上空を飛んだ家からは死人が出ると言われていた。
 古くはオーディンの連れる猟犬されていたらしい。ケルト人がクン・アヌンと呼んでいた同じく空を駆ける猟犬の妖怪とは恐らく同一であろう。現在ではこれらの正体は空を飛ぶ野鳥の群れがたてる音らしいとされている。

ケルピー
 イギリスの妖精。馬の姿をして現れる水の精。上半身が馬、下半身が魚とされることもある。しばしば水馬とも呼ばれる。
 主に川や湖に現れ、その背に乗る人を水中に引きずり込む。ただし捕えることが出来れば素晴らしい乗馬となるという。人間の姿で現れることもあり、その際は頭に水草のからまった髪の長い男の姿になるという。
 ブリテン諸島には他にもアハ・イシュケ、オヒシュキ、カーヴァル・ウシュタ等の水棲馬がおり、性質は微妙に異なる。

ネコマタ
 猫又あるいは猫股。日本の妖怪。長い年月を経て妖力を得た猫。化け猫とはしばしば同一視される。
 猫は10〜30年ほど生きると尾が二股になり、二本足で立って歩き人語を解するようになるという。これが猫又で様々な妖力を持ち、よく女(とくに老婆)に化ける。死人を操る力を持つとされることあるらしい。

カーシー
 ケルトの妖怪。犬の妖精。カーシー(Cu Sith)の名はそのまま「犬妖精」の意。
 主にスコットランド地方に出没する妖精犬。緑色あるいは暗緑色の毛むくじゃらの巨大な犬で長い尻尾を持つ。普段は妖精の住処の番をしているが時折狩りなどのために放される。音もなく滑るように走り、また吠えることはなく代わりにすさまじいうなり声を三度だけたてるという。

オサキ狐
 尾裂狐あるいは尾崎狐、御先狐等。日本の妖怪。狐の眷属とされる妖怪。古くはオサキあるいはミサキと呼ばれた。
 狐の一種とされるがさらに小さくむしろ鼬に近いという。尾が二つに裂けているとされ、それが名前の由来とされるがこれは後世の俗説らしい。正確にはクダギツネや野狐等と同じく憑き物の一種であり、オサキ狐は主に関東地方での呼び名。
 家(家系)に憑くとされ、これが憑いた家は繁盛するとされるが、一説にはやがて養いきれずに衰退するともいう。オサキ狐の憑いた家は「オサキ持の家」と呼ばれて忌避されたという。また別の説では人に憑く一種の使い魔ともされ、これを操る家系が「オサキ持の家」であるともいう。

参考:魔獣 キツネ 魔獣 クダギツネ

オコンキツネ
 日本の妖怪。旧讃岐国(愛媛県)に出没したという化け狐。
 ただしおこん、あるいはこん、ごん等と呼ばれる(通称される)狐の伝承は日本各地に存在しており、そうした狐の総称とも考えられる。
 また、新見南吉『ごんぎつね』、さねとうあきら『おこんじょうるり』等、文学上にも有名なものが存在しているのでそちらを指している可能性も高いと思われる。

参考:魔獣 キツネ

ケットシー
 ケルトの妖精。妖精の猫。ケットシー(Cait Sith)の名はそのまま「猫妖精」の意。
 犬ほどの大きさがある黒猫で、一ヶ所だけ白いぶちがあり(これがケットシーの印であるらしい)緑色の目をしているという。主にスコットランド地方に出没し、二本足で立って歩き人語を解するという。普段は正体を隠しており、密かに王国を形成してさえいるらしい。一説に魔女の変身した姿であるともされる。
 『真・女神転生 東京黙示録』(コミックス版)では三山麻緒(ミヤーマーオ)の名で登場し、相馬三四郎を罠にかけて捕えるが、結局彼の逃亡に力を貸している。

キツネ
 狐。日本の妖怪。化けると信じられた実在の動物。
 人(特に女性)に化けると信じられ、一般に多く『狐女房』と呼ばれる異類婚譚に登場する他、日本各地に様々な狐伝承が存在している。女に化ける場合は主に人の精気を吸い取るのが目的であるとされ、狐は昔の婬婦が変じるものともされた。その一方で狐は稲荷神等の使いとも信じられている。長く生きた狐はやがて神通力を得るとされ、野狐、気狐、空狐、天狐(位には諸説あり)と位が上がり、それにつれて尻尾が増え最終的には九尾の狐になると言う。
 「狐」は「来つ寝」であったとされ、本来は夢魔的存在であったらしい。これが実在の動物と結びつけられて化ける存在となったのは中国の道教思想の影響と推察されている。また稲荷神等の使いとされたことには諸説あるが、元々狐は鼠を食べる等の理由から田の神として信仰されていたという側面が大きいと思われる。
 なお「狐憑き」等の憑き物に関連づけられる狐はまったく別のもので、普通の狐よりもさらに小さく鼠や鼬に近いものであった。関東ではオサキキツネ、中部・東海ではクダギツネ、山陰では人狐、四国では犬神(四国には狐がいないためと推察される)、九州では野狐等と呼ばれ、これらを使役して人に憑かせる家系があると信じられていた。これらの正体は鼬やオコジョであったと言われる。

参考:聖獣 白狐 魔獣 葛の葉 魔獣 オサキキツネ 魔獣 オコンキツネ 魔獣 クダギツネ

クダギツネ
 管狐。日本の妖怪。狐の眷属とされる妖怪。
 狐の一種とされるがずっと小さく細長い姿をしており、竹管の中で飼えるほどだという。故に管狐と呼ばれる。正確にはオサキ狐や野狐等と同じく憑き物の一種であり、クダギツネは主に中部・東海地方での呼び名。
 クダギツネは一種の使い魔的性格を持ち、クダギツネを使役して人に憑かせたり占いを行ったりするクダ使いと呼ばれる家系あるいは術師があったと言われる。クダギツネは別名を飯綱(いづな)ともいい、野干と同一視されたため陀吉尼天の使いともされた。

参考:魔獣 オサキキツネ 魔獣 キツネ