ヒスパニア わが愛

 スペイン王フェリペ1世(端正王)の妻フアナは夫が死ぬと愛の力で蘇生がかなうと信じ込み、とうとう墓を暴いて夫の亡骸をひしとかき抱き、体中に接吻を浴びせるまでに至った。
 しかし復活はならなかったが彼女はくじけず、日々亡骸とともに暮らし、散歩をさせて身辺の世話をし、ベッドで添い寝までした。もちろん毎日神に夫の復活を願っていたことは言うまでもない。
 それでもさっぱり復活する気配はなかったが、彼女はあきらめずに棺を館の隣にある僧院に安置すると、毎日墓を訪れてはなおも奇跡を願って神に祈りつづけた。
 結局夫の復活はならなかったが、この見上げるべき愛の行いは実に49年間も続いた。まさに真の愛情のなせる業といえるのだが、無粋な人々によってフアナは狂女王などというという実にけしからん渾名をつけられてしまった。
 ところでこれほどまでに愛された当の夫フェリペ1世であるが、彼は生前1度もフアナと床を共にしたことがないのだった。

戻る

抜ける