百家争鳴

 1912年、イギリスはサセックス東部ピルトダウン・コモンの砂利採取場でアマチュア考古学者のチャールズ・ドーソンにより数片の人骨が発見された。後に一大スキャンダルとなるピルトダウン人の発見である。
 エオアントロプス・ドーソニィ(ドーソンの暁人)と名づけられたこの「旧人類」は考古学界を驚嘆させ、人間と類人猿を繋ぐ「失われた環」を発見したドーソンは大変な栄誉を得ることになった。しかし年月が立つにつれて疑惑が高まり、発見後40年程してようやくこの「人骨」が偽造されたものである事が確定した。(発見当初から疑惑はあったのだが、当時はまだ正確な年代測定が出来なかった。)
 さて、真相が判明したのは良いとして問題なのは誰がこのインチキを企んだかという点である。事実を糾明しようにもドーソン本人は既にその30年前にこの世を去っており、真実は闇の中である。もちろん彼が犯人だろうというのが大筋の意見ではあるが、例によって怪説は多数存在している。ジョン・ウィズローなる大学教授が主張するところによれば犯人はあのアーサー・コナン・ドイル卿(件の砂利採取場のすぐ近くに住んでいた)で、その動機は熱心な心霊主義者であった彼を愚弄した科学者たちに復讐するためであったという。
 それを聞いた同じく大学教授のチャールズ・ブラインダー氏、自説を展開して曰く、真犯人は宿敵ホームズの産みの親であるドイル氏の名声を落そうとしたモリアーティ教授である、と。

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