歯に至る病、そして

 歯痛から人々を守る守護聖人は聖アポロニアである。彼女の遺歯は歯痛から人々を守ると信じられ、おかげで熾烈な争奪戦が展開された。ヘンリー4世の時代にはイギリス国内でその争いがあまりに激化したため、やむなくそれらを回収し取り引きを禁止する措置が講じられたが、集められた他称聖アポロニアの遺歯は実に数トンにも及んだという。
 当時でさえそれほどの熱狂なのだから、一方で歯医者という存在もまた人々に恐怖を与える現代においてはムシ歯の恐ろしさは底知れずと言えよう。
 こうした恐怖の履歴には新たな一ページが加えられている。1950年代初頭、イギリスはチェシャ州ナントウィッチで新築の公営住宅が全壊するという事件が起こったが、その原因はムシ歯をドアノブに結びつけてドアを勢いよく閉めるという伝統的抜歯法の失敗であった。

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