国王陛下のインコンパラブル号

 かつてドレッドノート級戦艦を実現させて世界の海軍事情を一変させてしまった、ロイヤル・ネイビーきっての名物軍令部長フィッシャー提督、第一次大戦の戦線膠着にともない再び軍令部長に復帰すると、泥沼化しつつあったこの戦争を終わらせるべく、かねてから温めていた大胆な作戦計画の実現に向けて行動を開始した。通称「バルト海侵攻作戦」と呼ばれるその作戦は、オランダ・デンマークの協力(ただし艦隊を沖に停泊させたうえで協力を要請する腹だったらしい)の下に全戦力を北海沿岸に投入、シュレスヴィヒ・ホルシュタイン両地方を制圧してバルト海沿岸から上陸部隊をベルリンに突撃させるという壮大なものであった。
 この作戦には強力な艦砲射撃による支援が必須と考えたフィッシャー提督、強権を発動して当作戦用の艦艇を幾つも建造した上、50p連装砲3基を搭載して35ノットの高速を発揮する超巨大(戦艦大和より全幅が40mも長い)巡洋戦艦<インコンパラブル>を計画するに至った。幸いガリポリ上陸作戦が失敗して海軍大臣のチャーチルともども更迭されてくれたので事なきを得たが、そうでなければ本当に実現してしまったかも知れない。
 インコンパラブル程ではないにせよ、フィッシャー提督にはまた別の新兵器があり、こちらは本当に建造されてしまった。大口径砲を搭載した隠密砲撃用潜水艦M級である。しかし建造には手間取り、計画された4隻のうち戦時中に完成したのは1隻のみでしかも実戦には参加しなかった。結局3隻(4番艦は建造中止)が完成したが、1番艦は衝突事故で沈没して乗員は全員殉職、2番艦もやっぱり事故で沈没し同じく乗員は全員殉職した。

戻る

抜ける