自画自賛

 大デュマの名で知られる作家のアレクサンドル・デュマは大変な多作家で、次から次へと作品を書き飛ばすあまり自分一人では手に負えなくなり、しばしば代作者さえ使ったらしい。友人のドラクロワなどは自分が歴史画を描く為に集めてきた史料をデュマが片っ端からつまみ食いして作品を書き上げてしまうのに辟易していたという。
 しかしデュマ自身は自分の書いたものに関して無頓着で、全く読み返そうとしなかった(彼曰く、「俺は書く方に時間を使ったから読む方は他人に任せる」)。だが死の床で息子の小デュマに勧められてとうとう自作を読みはじめ、『モンテ・クリスト伯』を読んでいた途中で「残念だ!結末を読めないうちに俺は死にそうだ。」
 デュマと同様の人物に作曲家のシューベルトがいた。彼もまた次々に作曲を続けた(わずか31歳で死去したが作品数は1000曲にも及ぶ)が、作曲するそばから過去の作品のことを忘れていった。あるとき友人で歌手のフォグルが2週間前に完成した彼の歌曲を歌う際にその伴奏をしていたが、その途中で突然叫んで曰く、「これは素晴らしい曲だ!一体誰の作曲だ?」

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